彩華
「こんなところに連日入り浸っていたのが運の尽きよ!」

 後方の一人が、構えていた刀を振り被って紫苑に襲い掛かった。
 紫苑は遊女から少しだけ身を起こし、己に向かって振り下ろされる刀を見た。
 その目が、ふ、と細められる。

「姐(あね)さん、ごめんよ」

 小さく言うと、紫苑は素早く抱き付いていた遊女の髪から簪を抜き取った。
 そして振り下ろされる刀身を僅かな動きで避けると、そのまま男の懐に飛び込んだ。

 一瞬、男は刀を振り下ろした格好のまま、動きを止めた。
 その男に身体を密着させるように寄せていた紫苑の手が、ひゅっと赤い線を描きながら降ろされた。
 何かを握っている。
 紫苑の手を追うように、男がどさっと倒れた。

「こんなところたぁご挨拶だねぇ。ここは極楽だぜ」

 くく、と笑いながら、紫苑は握っていた簪を、くるくるっと回した。
 血が少しだけ飛ぶ。
 遊女の髪から抜いた簪を、男の首に突き刺し、そのまま引き斬ったのだ。

 簪は突き刺すことは出来るが、刃物ではないので斬ることは出来ない。
 それで首を掻き斬るなど、物凄い力だ。
 肉を引きちぎるようなものである。

 ぞく、と紫苑に対峙している二人の背筋を、冷たいものが流れた。
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