彩華
 イヤァッ!!

 裂帛の気合を発し、大柄な男が抜刀した。
 抜き付けの一撃が、紫苑の首に伸びる。
 常人には見えないほどの居合術だ。

 が、刀が紫苑の首根を捉えた、と思った瞬間、ふ、と紫苑の姿が視界から消えた。
 身体を倒し、迫る刀身を避けたのだ。

 紫苑の身体が左に泳いだように見えた。
 左手にいた若者が、この隙を捉え踏み込んだ。
 三味線を弾いていた遊女のほうに倒れ込んだ紫苑に、渾身の一撃を見舞う。

 横向きに倒れ込んでいた紫苑が反転した。
 びぃん、と三味線の音がした、と思ったその瞬間、ぶわ、と血が飛んだ。
 どぅ、と若者が倒れる。

「先の奴で学習しなかったのかね。不用意に近づいたら危ないぜ」

 三味線の撥を逆手に持った紫苑が、頬に飛んだ血を拭いながら呟いた。
 大柄な男の顔が歪む。

 これが今まで幾度となく刺客を差し向けられても生き延びて来た殺し屋の実力か。
 傍にあるものが何でも凶器になる。
 例え素っ裸であっても、丸腰ではないのだ。

「殺されたお二方のために、お歌を進ぜやしょうか」

 大柄な男が納刀したのを見、紫苑が遊女から三味線を受け取り、先程若者の喉を一瞬にして斬り裂いた撥で弦をつま弾く。

 大柄な男は諦めたわけではない。
 再び居合を遣うために、刀を納めたのだ。

 抜刀してからの攻撃では、紫苑の攻撃には間に合わない。
 僅かでも紫苑に先に仕掛けさせれば、居合の速さで勝てるはずだ。
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