毛づくろう猫の道しるべ
 誰も苛立って険しい顔つきをしていた。

 草壁先輩の前で大事にならないように一応助けようと努力をした事は無視されている。

 期待する方が間違っているのだろうけど。

 ひょっとして殴られるのだろうか。

 一人が真正面に近づいてきた時、私は身を竦めて下を向いた。

「ぶたないで下さい」

「ちょっと人聞きの悪いこと言わないでよ」

 若干動揺したように、周りを気にして見ていた。

 五人衆の中でも一番きつそうで、ハキハキとしている。

 いつもこの人が先頭になって話を進めるところを見ると、やはりリーダー格のようだ。

 後から分かったがこの人は常盤(ときわ)さんという。

「あんたさ、自分のやってる事わかってるの?」

「はぁ?」

 やっぱり私は先輩という力に屈したくなく、つい呆れた口調をついてしまった。

「うわっ、何その態度、益々腹が立つ!」

 一斉にみんなの顔が歪み、目つきが益々鋭くなって憎悪に溢れていた。

 だけど、自分は何も悪い事をしていない。

 一年上という事を武器にパワハラされてるだけに思えてならない。

「私、何もしてませんし、草壁先輩とは何の関係もありません」

「関係ないのなら、なぜ教室まで来て呼び出したり、手紙渡したり、親しく話してるの」

 なんだか話がこじれている。

 あの時の私の行動は知らない人が見れば、そう思われても仕方がない。

 あれは出渕先輩の事で助けを乞うただけなのに、なんだかそれをまた一から説明するのもややこしい。

「あの時、櫻井さんはものすごく傷ついたのよ」

 この人達は、サクライさんのために一致団結しすぎている。

 でもそこまでサクライさんは友達に慕われてるのも羨ましい。

 自分の事でもないのに、友達のためだけに行動していることに一種の尊敬の念を抱くくらいだった。

 自分もそんな友達が欲しいというのに、サクライさんが羨ましすぎる。

「どうしてそんなにサクライさんのためにできるんですか?」

「はぁ?」

「皆さん、友達思いなんですね」

 私の素直な気持ちだった。

「あんたね、馬鹿にしてるの?」

「いえ、その、決してそうではないんですけど、つい口がついて……」

 その時、一人だけ困惑気味に、どうしても強く私を睨みきれない人がいた。

 強いて言えば、取り巻きの中で一番気が弱そうなタイプだった。

< 100 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop