毛づくろう猫の道しるべ
みんなに流されてただ一緒についてきている。
自分の意見を言わずに、ひたすら従順で、多少の事でも我慢するような人……
あれ? なんだか急に何かと重なったような気持ちになって、思わずその人の事を見てしまった。
その人は、気まずそうに私から視線を逸らした。何か言いたそうに、唇をわなわなと震わせ下を向いている。
暫くその人を見ているとまた常盤さんにどやされた。
「あんた、いい加減にしなさい。一年の分際で生意気に行動してそれで許されると思う?」
「別に私は生意気に行動してるわけではないです」
「じゃあ、生意気じゃなかったら謝りなさいよ。そして今後草壁くんと話をしないって誓いなさいよ」
一年生はいう事を聞いて当たり前と押し付けるように、先輩という権力を盾にしているとしか思えなかった。
ここで屈した方が自分のためになるとは思っていても、理不尽な条件を付けられてそれに誓うだなんて、とんでもない。
草壁先輩とはこの先も顔を合わすだろうし、普通に挨拶もできないように強制されるのが腑に落ちない。
怒りをぶつけている先輩達の目つき。
それは恐怖心を植えつけるものではあるが、むかついて睨み返したくなるようでもあった。
謝ってしまえという気持ち、立ち向かえと反抗したい気持ちが葛藤してしまう。
私は一体どうすればいいのだろうか。
身を屈め、上目遣いに様子を伺う。
私が素直に謝らないことで先輩達の苛立った気持ちが絵に描いたように見えてくる。
ぐっと体に力を込めて、私はどうすればいいのか考えた。
今後の事を考えて、悔しいけど二度もしつこく取り囲まれれば、ここは屈服した方が得策という気持ちが固まりつつあった。
しかしその時、場違いな着メロの音が聞こえた。
アップテンポな軽やかな響きは緊迫していたその場の雰囲気を簡単に崩した。
誰もが調子狂ったこの間をぎこちなく感じてギクシャクしているとき、常盤さんだけが慌てて鞄からスマホを取り出して確認していた。
みんなからの視線を一度に受けても、開き直った態度を見せて物怖じしていない。
また誰も何も言い出せないで黙りこんでいるだけのしらけた空気が流れていく中、その場で通話を始めた。
「はい…… そうだけど…… えっ、ど、どうして私の電話番号知ってるのよ…… えっ、ちょっと待ってよ……」
会話を始めたリーダー格の声が急に慌てだし、私をチラリと見ては後ろにさがって私を避けだした。
誰と話しているのだろうか。
顔を青ざめて小さな声で受け答えしているその様子は、どうやら苦手な人らしい。
キョロキョロと辺りを見回し、怯えているようにも見える。
そして通話が切られた時、咳払いをする声と共に常盤さんは私を一瞥するが、先ほど感じた居丈高が弱まっていた。
「とにかく、これ以上草壁君には近づかないことだわ」
捨て台詞を吐くように、キッーっと私を睨みながらも、その後は勝手にスタスタと歩いていってしまった。
私も何が起こっているのかわからなかったが、残りの四人も戸惑いながら、後をついていった。
砂浜に流れ着いた漂流物のように一人取り残された私は、暫く唖然として動けなかった。
自分の意見を言わずに、ひたすら従順で、多少の事でも我慢するような人……
あれ? なんだか急に何かと重なったような気持ちになって、思わずその人の事を見てしまった。
その人は、気まずそうに私から視線を逸らした。何か言いたそうに、唇をわなわなと震わせ下を向いている。
暫くその人を見ているとまた常盤さんにどやされた。
「あんた、いい加減にしなさい。一年の分際で生意気に行動してそれで許されると思う?」
「別に私は生意気に行動してるわけではないです」
「じゃあ、生意気じゃなかったら謝りなさいよ。そして今後草壁くんと話をしないって誓いなさいよ」
一年生はいう事を聞いて当たり前と押し付けるように、先輩という権力を盾にしているとしか思えなかった。
ここで屈した方が自分のためになるとは思っていても、理不尽な条件を付けられてそれに誓うだなんて、とんでもない。
草壁先輩とはこの先も顔を合わすだろうし、普通に挨拶もできないように強制されるのが腑に落ちない。
怒りをぶつけている先輩達の目つき。
それは恐怖心を植えつけるものではあるが、むかついて睨み返したくなるようでもあった。
謝ってしまえという気持ち、立ち向かえと反抗したい気持ちが葛藤してしまう。
私は一体どうすればいいのだろうか。
身を屈め、上目遣いに様子を伺う。
私が素直に謝らないことで先輩達の苛立った気持ちが絵に描いたように見えてくる。
ぐっと体に力を込めて、私はどうすればいいのか考えた。
今後の事を考えて、悔しいけど二度もしつこく取り囲まれれば、ここは屈服した方が得策という気持ちが固まりつつあった。
しかしその時、場違いな着メロの音が聞こえた。
アップテンポな軽やかな響きは緊迫していたその場の雰囲気を簡単に崩した。
誰もが調子狂ったこの間をぎこちなく感じてギクシャクしているとき、常盤さんだけが慌てて鞄からスマホを取り出して確認していた。
みんなからの視線を一度に受けても、開き直った態度を見せて物怖じしていない。
また誰も何も言い出せないで黙りこんでいるだけのしらけた空気が流れていく中、その場で通話を始めた。
「はい…… そうだけど…… えっ、ど、どうして私の電話番号知ってるのよ…… えっ、ちょっと待ってよ……」
会話を始めたリーダー格の声が急に慌てだし、私をチラリと見ては後ろにさがって私を避けだした。
誰と話しているのだろうか。
顔を青ざめて小さな声で受け答えしているその様子は、どうやら苦手な人らしい。
キョロキョロと辺りを見回し、怯えているようにも見える。
そして通話が切られた時、咳払いをする声と共に常盤さんは私を一瞥するが、先ほど感じた居丈高が弱まっていた。
「とにかく、これ以上草壁君には近づかないことだわ」
捨て台詞を吐くように、キッーっと私を睨みながらも、その後は勝手にスタスタと歩いていってしまった。
私も何が起こっているのかわからなかったが、残りの四人も戸惑いながら、後をついていった。
砂浜に流れ着いた漂流物のように一人取り残された私は、暫く唖然として動けなかった。