毛づくろう猫の道しるべ
 同じ一年生同士だから、連携して仕事をこなさなければならないのに、上手くやっていけるのか不安になる。

 あれよあれよとマネージャーとなり、いや、させられたと言った方がいいのかもしれないこの環境。

 複雑な気持ちのまま、私はこの輪の中に身を置いた。

「それじゃミーティング始めます」

 三年生の一人が号令を掛けた後、今後の試合の事、練習事項などスケジュールの事が話された。

 そしてそれが終わると、マネージャーの心得ややるべき仕事内容を教えてもらい、それをメモしながら私は聞いていた。

 どこに何があるか、ボールの手入れ、水分補給のために用意するドリンクや怪我のときのための救急箱と応急処置の仕方、練習試合で相手チームを呼んだときのおもてなしや、運動場の整備など細かいことまで色々とありすぎて一度に頭に入らなかった。

 とりあえず、みんながやることを側で見て徐々に慣れて行くしかなかった。

 早速、練習に励んでいるみんなに飲み物を配るという仕事が与えられ、私は加地さんと一緒に持っていくことになる。

 大きなヤカンと紙コップを持って黙って加地さんの後をついていった。

 部員の前だと加地さんはにこやかになって愛想よく、笑うと右頬にえくぼができていた。

「お、千咲都ちゃん、早速のマネージャー業かい。なんだか無理やり誘ったみたいで、ごめんね」

 草壁先輩にコップを渡しながら私の顔が引き攣った。

 まさに無理やりではないか。

「いえ、練習お疲れ様です」

「でも、千咲都ちゃんが来てくれてよかった。加地さんもこれで負担が少なくなるね」

 話を振られた加地さんは、満面の笑みを浮かべて元気よく「ハイ」と返事していた。

 草壁先輩を見る目つきがとても生き生きとして輝いている。

 やはり憧れているのだろう。

 その後もフレンドリーに私に話しかけてくれる部員が何人かいた。

 だがシャイな人や、人付き合い慣れしてない人などは接触がぎこちない。

 碌に挨拶もできないままの人達もいた。

 それでも飲み物を渡せば素直に「ありがとう」と返ってきたので、その言葉にどこかほっとさせられた。

 一年生の部員も何人かいるが、その中に自分のクラスの生徒はみかけなかった。

「今日は別にやることないし、マネージャーは先に帰ってくれていいよ。俺たちも今日は早めに切り上げるつもりだ。他のマネージャー達にもそう言っておいてくれ」

 宗谷先輩が部長として指示を出す。

 加地さんと私は歯切れよく「はい」と返事した。

 遠くから草壁先輩が、部屋を出ようとしていた私に声を掛ける。
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