毛づくろう猫の道しるべ
 そんな私達の複雑な思いとは裏腹に、休み時間の教室内はがやがやとざわめき、皆それぞれ話題が尽きることなく会話が弾んで活気付いていた。

「それで、草壁先輩とはどうなってるの?」

 私がマネージャーになったことで、相田さんは益々私に一目を置き、私の側に来ては根掘り葉掘り草壁先輩の事を質問してくる。

「だから、その、今はサッカーのルールや仕事を覚えることが忙しくて……」

 そんなに気になるのなら相田さんがサッカー部のマネージャーになればよかったのに。

 今からでも遅くないから入部すればと言ってみるが、相田さんは首を横に振る。

「私は遠くから見ているだけで幸せなの。自分で勝手に妄想して楽しむのが好きなの」

 一体何を妄想して楽しむというのだろう。

 相田さんはオタク傾向が強いので、もしや男性同士のアレのネタにしてるのかもしれない。

 想像するとなんだか震えがきてしまい、怖くて訊けなかった。

「だけど、千咲都がサッカー部のマネージャーだなんて、本当にやっていけるの?」

 口を開いたのはなんと希莉だった。

「えっ、そ、それは」

 私は突然の希莉の質問に言葉が詰まってしまう。

 希莉が私に声を掛けてくるのは久し振りのような気がする。

「だって、千咲都は優柔不断で、頼りないじゃない。そんな人に世話役が務まるなんて、私思えないな」

 久し振りに話しかけてきてくれた希莉の言葉は、とても尖って私の心をちくっとさせた。

 希莉が私を否定しているのがとても悲しい。

 もう元に戻れないくらい私達の溝は深く開いてしまったのだろうか。

「私もそれはよくわかってるけど、でも、こんな事になるとは思わなくて」

「よくわかってるの? ほんとに? それでも、断れなくて受けたってこと?」

 白々しさが残る呆れた希莉の声がきつく耳に届く。

「うーんと、そ、そういう事になるのかな。でももうやるっていっちゃったし、言ったからにはやっぱりちゃんとやらなくっちゃ」

 ここでポジティブに、やる気になってると笑顔を添えてアピールしておく。

 それがやせ我慢だと分かっていても。

「千咲都、やっぱり何も分かってないんだね」

「えっ?」

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