毛づくろう猫の道しるべ
 それぞれ工夫してトレーニングしていた。

 私はストップウォッチを持って秒を測り記録を取ったりしていた。


 蒸し暑いので水分補給の用意もし、私なりにできることを見つけて汚名返上にいそしんだ。


 加地さんから意地悪をされた事は悔しく腹も立つが、部員達に庇ってもらえたことが嬉しくも感じてしまった。

 味方がいるような心強さにつながったかもしれない。


 でも今度はもっと加地さんに気をつけ、仕事の嫌がらせをされないようにしないといけない。

 部員の練習を離れて見ている加地さんにそっと近寄り、私は独り言のようにささやいた。


「私に嫌がらせをするのは構わないけど、部員に直接迷惑かかるような事はやめて下さい」

 加地さんも前を見て、落ち着いて話す。

「何を言うの、しっかりと確認を怠ったあなたが悪いわ。人聞きの悪いこといわないで」

「一時間目が終わったとき、私が場所の確保を加地さんに相談したよね。でも加地さんは自分が全てやるって言ったのはなぜ」

「あら、そんな事言ったかしら」

 その時後ろから声が聞こえた。


「言ってたよ」


 誰も居ないと思っていただけに、加地さんも私もびっくりして振り返ると、そこには同じ一年生の落合君が立っていた。


 普段は口数少なく、目立たない部員で私も直接話した事はまだ一度もなかった。

 私達が呆然と突っ立って顔を見ていると、落合君は伏目がちに沈んで言った。


「岡本さんも何も辞める事はなかったんだ。僕、加地さんが岡本さんに辛く当たってるの知ってたけど、気弱だから言えなかった」

「落合君は岡本さんの事好きだから、贔屓目で見てたのよ。あの人自分が何もできないから辞めただけよ。私のせいにしないで」

「でも、今回僕はしっかり見たよ。一時間目の終わり、遠山さんが場所の事で加地さんに相談しているところ」

「一体何が言いたいの? 私が悪いことにしたいの?」
 
加地さんは落合君を睨んでいた。

 気弱な部員なので低く見ているようだった。
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