毛づくろう猫の道しるべ
「僕はただ真実を……」

「馬鹿馬鹿しい。だったらなぜもっと早くみんなの前で言わないの。それができなかったくせに、今更コソコソと言いにくるなんてほんとバカ」

 加地さんの横暴な態度に腹が立って仕方がない。

 なんていう人なんだろう。ここまで歪んでるとは思わなかった。


 落合君は俯き加減に何もできずに突っ立っている。

 それを充分加地さんは承知で鼻で笑った後、不敵な笑みをぶつけて、スタスタと歩いていってしまった。

 ひたすら酷い、マネージャーらしからぬその態度に私は怒りで震えていた。


「遠山さん、ごめんね。あの時僕が一言言ってたら、君が悪くないって証明できたのに。僕、人前で話すのが苦手で、それで言えなかった」

「いいの。気にしないで。もし言ってたとしても、きっとあの人は上手くいい逃れたと思う。そしたら落合君にも迷惑が掛かってた。それに、すでに終わったことで、皆許してくれたし」


「遠山さんは悔しくないの?」

「それを言うなら、落合君だって、大丈夫?」


「僕はどうせダメな人間だからいいさ」

「そんな事ない。落合君、サッカーしてるときはすごく機敏で積極的だよ」


「ボールを追いかけてる時は無心になれるからね。でも普段は人間付き合いが苦手で、どうしても避けてしまうんだ」

「だけど、今、私と話してるわ」


「君はボールを顔で受けただろ。あれを見てから、君の顔がサッカーボールに見えちゃって」

「えっ、やだ、それ」


「あの、悪い意味じゃなくて、君も、結構お人よしみたいだし、僕と同じような感じがするってことなんだ」


 おい、それって私もダメな人間ってことなの?

 突っ込みたくなったが、ここは無理して笑っていた。


 だけど、まだサッカーボールを追いかけている時は、私よりは立派な態度ではあると思うので、落合君の言葉は聞き流した。

 この人も不器用だと思うと、やはり私と似ているのかもしれない。


 落合君は恥かしそうに顔を赤らめ、私を見ていたが、足元にあったサッカーボールを蹴り上げて手に持ち、みんながいる場所へと行ってしまった。

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