毛づくろう猫の道しるべ
 だから、いつものように図書室で近江君を探してキョロキョロし、近江君が笑顔で振り向くその姿をイメージして、本棚の筋を一つ一つ見ていた。


 だがその時私の目に飛び込んできたのは、人目につかない奥の本棚の前で、櫻井さんと楽しそうに話している近江君の姿だった。


 てっきり近江君一人でいると思いこんで、図書室の中を歩き回っていたから、私がそこに顔を出したとき、隠れる事もできず二人の目の前に堂々と姿を現してしまった。


 「おっ、遠山」「あら、遠山さん」と二人同時に私の名前を呼ばれ、私は櫻井さんが居たことで緊張して頭を下げた。


「何かしこまってんだよ。なんか俺に用か?」


 いつもの調子で近江君は私に話しかけてくれたが、私はそのいつもの調子で受け答えができなかった。


「遠山さんもよく本を借りに来るの?」

 櫻井さんは清楚に微笑み、美しい姿で私に問いかける。


「いえ、そんなに頻繁には」

 図書室には来ても、今迄まだ一度も本を借りたことがなかった。


「そういえば、昨日の部活の話聞いたわよ。何かの手違いがあったみたいね」

 櫻井さんは優しく笑っているところを見ると、責めているわけではなさそうだった。


 だけど私は、櫻井さんのようにマネージャーとして完璧に仕事がこなせないコンプレックスを感じ、しゅんとうな垂れてしまった。


「なんだよ、何があったんだ。また失敗したのか?」

 近江君が笑い話と思って軽く言っただけだろうが、私には重く圧し掛かる。


 また失敗……


 いつも失敗しまくって、問題ばかりが転がり込む私には辛い言葉だった。


「どうした、遠山、なんだか変じゃないか。いつもなら食いかかってくるのに」

「ううん、ちょっと思い出したくなかっただけ。どうせ私はドジで何をやらせても失敗ばかりだから」

「おいおい、何を自虐してるんだ。今日の遠山、おかしいぞ」

「だけど、昨日は本当に大失敗で、部活の皆に迷惑掛けたから、思い出すと罪悪感一杯になるの」

「遠山さん、気にしなくていいから。昨日はみんなで乗り切ったんでしょ。誰も遠山さんの事責めてないわよ。遠山さんはとてもよく頑張ってくれてるってみんなにはいい評判よ。あなたが来てくれたお蔭で私も助かったんだから」

 櫻井さんは部活に居る時と比べて穏やかだった。

 責任感が強い分、部活の時は厳しく私を指導するけど、関係ないところでは優しく接してくれる。

 やはりできた人だと思うし、裏表がないから、こういう人程尊敬できる。

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