毛づくろう猫の道しるべ
 だけど、いくら優しい言葉をかけてくれても、なんだか今日は素直に受け入れられなかった。

 少しだけ抵抗もしたくなってくる。


「櫻井先輩、私はやっぱり力不足でこのままでは心配です。どうかマネジャーやめないで下さい。考え直してくれませんか?」

「まだ言ってるのね。でももう無理なの。それは変えられないの」

「どうしてですか?」

「私、この夏、交換留学生としてアメリカに一年留学することが決まってるの。だから部活が続けられないってわけなの」

「えっ!」

 草壁先輩が原因じゃない事はすでにわかっていたが、そういえば、職員室で江坂先生に会った時、桜井さんの進路変更でマネージャーが続けられないと言っていた事を思い出した。

 なるほど、それで急遽部活が続けられなくなって、やめることになった。


「こればっかりはどうしようもないわ。だから、やめなくっちゃならなくなって、その代わりに遠山さんみたいないい人が入ってきてくれて、本当に感謝してるのよ。遠山さんになら安心して任せられるわ。草壁君も太鼓判押してるわよ」

 草壁先輩の事はどうでもいい。


 そっか、櫻井さんはアメリカに留学するのか。

 なんだかそれを聞いてほっとした。


 この学校はアメリカにも姉妹校があって、海外交流は盛んだった。

 毎年、希望者は一定の条件が揃えば留学できることになっていた。

 ただその分、ハードなカリキュラムらしいので、かなりの覚悟がいるらしい。

 余程普段から勉強ができる人じゃなければ行けないと噂は聞いていた。


 櫻井さんなら才女そうで、やって行けるだろう。

 夏から居なくなってしまうと知ったとたん、さっきまでのモヤモヤが解消された。

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