毛づくろう猫の道しるべ
五階建てのそのマンションは一階の入り口が建物の半分を占め、もう半分には小さなオフィスがあり、ガラス張りの窓から人が働いている様子が見えた。
どこにでも良くありそうなマンションだが、比較的新しい外装で、落ち着いた色合いが高級っぽく見える。
入り口には暗証番号を入力する設備も備えられセキュリティも万端に整っていた。
そこで番号を打ち込み、近江君は来いと顎で指図した。
一緒に中に入れば、オフィスのような開放的なロビーがあり、応接間のようにソファーが添えられていた。
その先にはエレベータが二つあった。
丁度誰かが降りてきて、扉が開くと、ケバイ化粧で派手なドレスを着た女性と、もう一人着物を着こなした艶やかな女性が出てきた。
どちらも普通に見かけるような人じゃなく、見てるだけで後ずさりするくらい圧倒された。
夜のその道の人というのか、ホステスといった雰囲気がモロにした。
「あら、ハルちゃん、お帰り。まあ、今日は女の子がいる」
派手なドレスの女性が親しく語りかける。
着物を着た方は、全てを見通すような鋭い眼差しでじっと私を見ていた。
高貴な雰囲気につつまれ、近づきがたい恐れがある。
私は落ち着かなくて、モジモジしていると、着物を着ていた方が「ハルを宜しく」とにこやかな笑みを添え、洗礼された物腰で礼をした。
先ほどの畏怖が少し和らぎ、気品あるその笑みに暫し釘付けになる。
「いえ、そんな、どうも」
慌ててお辞儀を返したが、困惑しておどおどしてしまった。
「今日は早いんだな。酒は程ほどにな」
近江君が生意気な口を聞く。
「分かってるわよ」
着物の女性は鼻でクスッと笑って答えていた。
そして二人は優雅な物腰で去っていき、外で待機していた三井さんの車に乗り込んだ。
暫くその様子をポカンとしながら私が見てると、いつの間にかエレベーターに乗り込んでいた近江君が顔だけ出して叫んだ。
「ほら、早く来いよ」
訳がわからないまま、私は小走りでそれに乗った。
エレベーターは一番最上階へ向かう。
着いた先で近江君が降り、私も当たり前のように後を続いたが、そこではっとした。
「ちょっと、ここどこ?」
「俺んちさ」
「近江君のうち?」
「因みに、さっき着物を着てた女が俺の母親」
「えーっ」
その風貌にも驚いたが、何も知らずにさらっと近江君の母親に会ってしまったことにも驚いた。
「ちょ、ちょっと」
近江君はすでに一番端の部屋の鍵をドアに差して開けていた。
「いつまでも廊下にいても仕方がないだろ。ほら、中に入れよ」
私は恐る恐る近江君の後をついて入っていく。
モダンなその造りの部屋は、きれいに掃除されていて住み心地よさそうだった。
「遠慮なく上がれ」
「お邪魔します。いいところに住んでるのね」
「まあな。なんか飲むか」
キッチンとダイニングが一緒になった場所。
その仕切りになっているキッチンカウンターの中に近江君は入って、ごそごそと下から、色んな形のボトルを取り出した。
「えっ、それ、お酒じゃないの」
「ああ、そうだ。カクテルも作れるぜ」
どこにでも良くありそうなマンションだが、比較的新しい外装で、落ち着いた色合いが高級っぽく見える。
入り口には暗証番号を入力する設備も備えられセキュリティも万端に整っていた。
そこで番号を打ち込み、近江君は来いと顎で指図した。
一緒に中に入れば、オフィスのような開放的なロビーがあり、応接間のようにソファーが添えられていた。
その先にはエレベータが二つあった。
丁度誰かが降りてきて、扉が開くと、ケバイ化粧で派手なドレスを着た女性と、もう一人着物を着こなした艶やかな女性が出てきた。
どちらも普通に見かけるような人じゃなく、見てるだけで後ずさりするくらい圧倒された。
夜のその道の人というのか、ホステスといった雰囲気がモロにした。
「あら、ハルちゃん、お帰り。まあ、今日は女の子がいる」
派手なドレスの女性が親しく語りかける。
着物を着た方は、全てを見通すような鋭い眼差しでじっと私を見ていた。
高貴な雰囲気につつまれ、近づきがたい恐れがある。
私は落ち着かなくて、モジモジしていると、着物を着ていた方が「ハルを宜しく」とにこやかな笑みを添え、洗礼された物腰で礼をした。
先ほどの畏怖が少し和らぎ、気品あるその笑みに暫し釘付けになる。
「いえ、そんな、どうも」
慌ててお辞儀を返したが、困惑しておどおどしてしまった。
「今日は早いんだな。酒は程ほどにな」
近江君が生意気な口を聞く。
「分かってるわよ」
着物の女性は鼻でクスッと笑って答えていた。
そして二人は優雅な物腰で去っていき、外で待機していた三井さんの車に乗り込んだ。
暫くその様子をポカンとしながら私が見てると、いつの間にかエレベーターに乗り込んでいた近江君が顔だけ出して叫んだ。
「ほら、早く来いよ」
訳がわからないまま、私は小走りでそれに乗った。
エレベーターは一番最上階へ向かう。
着いた先で近江君が降り、私も当たり前のように後を続いたが、そこではっとした。
「ちょっと、ここどこ?」
「俺んちさ」
「近江君のうち?」
「因みに、さっき着物を着てた女が俺の母親」
「えーっ」
その風貌にも驚いたが、何も知らずにさらっと近江君の母親に会ってしまったことにも驚いた。
「ちょ、ちょっと」
近江君はすでに一番端の部屋の鍵をドアに差して開けていた。
「いつまでも廊下にいても仕方がないだろ。ほら、中に入れよ」
私は恐る恐る近江君の後をついて入っていく。
モダンなその造りの部屋は、きれいに掃除されていて住み心地よさそうだった。
「遠慮なく上がれ」
「お邪魔します。いいところに住んでるのね」
「まあな。なんか飲むか」
キッチンとダイニングが一緒になった場所。
その仕切りになっているキッチンカウンターの中に近江君は入って、ごそごそと下から、色んな形のボトルを取り出した。
「えっ、それ、お酒じゃないの」
「ああ、そうだ。カクテルも作れるぜ」