毛づくろう猫の道しるべ
母はそれを利用して、愛する父との子供を手に入れることができたんだ。
約束ではドナーは匿名、受ける方の情報も一切洩らさないということで、もし子供ができたとしても、会わない会わせないが鉄則と念を押した。
だから母も父には俺の事は一切言うつもりはなかった。
だけど、父は余命を宣告されてから、自分の本当の妻と娘に全てを話してしまった。
またその妻も娘も大真面目だから、今の生活があるのも母のお蔭だと感謝し、父がしてしまった事をあっさりと許した。
そして、最後に父はあの時、自分の精子で子供ができたのか確かめたくて、母に連絡を取った。
母は随分悩んでたそうだけど、俺が大怪我をしたのを見てると、隠していたことが罰だと思って、考えが変わりそれであの病室に父と本妻と娘が現われたという事なんだ。
真実を知って、怪我が治った後、色々と思うところがあって、俺はもう一度父に会いたくて訪ねたら、すでに父は他界していた後だった。
家族だけの密葬を本人が希望していたので、葬式に呼ばなかったことを謝っていたけど、精子だけ提供してできた息子には自分は相応しくない父親だと思っていたに違いない。
俺みたいな存在を快く受け入れた本妻と娘は、俺を家に上げ、仏壇にお線香を上げさせてくれた。
その時、その家の娘、俺の半分血の繋がった姉になるわけだが、お腹が膨らんでたんだ。
俺と一回り離れてるから結婚しててもおかしくなかった。
姉は俺が若くして叔父になることを謝っていたけど、一人っ子だと思っていた自分に弟が居たことを喜んでもくれていた。
俺も同じく姉ができて嬉しいって言ったんだ。
俺は複雑な環境で誕生したけど、全然恥じる事もなかった。
本妻は正直悩んだかもしれないけど、俺が気にせず堂々としている姿にポロッと言ったんだ。
「若い頃の正晴さんに似ている」
そしてにっこりと俺に微笑んで、奥から若き日の父の写真を見せてくれた。
自分でもなんとなく似たところがあるって思ったよ。
父はとても頭がよかったらしい。
だけどそれを活かすのが下手だったとも聞いた。
俺の母は、頭は悪かったかもしれないけど、いざ頑張ったことを活かすのは上手かった。
それを照らし合わせた時、俺は二人のいいところを受け継いだかもしれないって、思うようになった。
そこで一からやり直してみたくなって、俺は出席日数がギリギリだったため留年することを選んだんだ。
これが俺の話って訳だ。
長い話だった。
手に持っていたグラスのソーダの氷が殆ど溶けていた。
それを一気に飲んだらとても水っぽかったけど、でも喉にすっと流れていくのが気持ちよかった。
近江君は照れくさそうな顔をして、自分が上手く話せたか気になっている。
「とてもいい話だった」
「自慢できる話でもないんだけど、中々いいネタにはなりそうだろ」
私は全てを話してくれた近江君がその時、もっと好きになっていた。
「今は面白半分に笑って話せるけどさ、当時はそれなりに悩んで色々と苦しかった。母もそして父とその家族も、きっとそれぞれの辛いことがあったと思う。そう思ったら、すーって楽になったんだ。遠山もさ、早く悩みが解決するといいな。そしてブンジの悲しみが早く癒える事願ってる」
「ありがと」
「それじゃ、ここからはブンジの弔いだ」
「えっ?」
近江君は部屋の奥に行ってしまった。
再び戻ってきた時、手に何かを二つ抱えていた。
その一つを私に差し出す。
私は戸惑いながら、それを受け取った。
約束ではドナーは匿名、受ける方の情報も一切洩らさないということで、もし子供ができたとしても、会わない会わせないが鉄則と念を押した。
だから母も父には俺の事は一切言うつもりはなかった。
だけど、父は余命を宣告されてから、自分の本当の妻と娘に全てを話してしまった。
またその妻も娘も大真面目だから、今の生活があるのも母のお蔭だと感謝し、父がしてしまった事をあっさりと許した。
そして、最後に父はあの時、自分の精子で子供ができたのか確かめたくて、母に連絡を取った。
母は随分悩んでたそうだけど、俺が大怪我をしたのを見てると、隠していたことが罰だと思って、考えが変わりそれであの病室に父と本妻と娘が現われたという事なんだ。
真実を知って、怪我が治った後、色々と思うところがあって、俺はもう一度父に会いたくて訪ねたら、すでに父は他界していた後だった。
家族だけの密葬を本人が希望していたので、葬式に呼ばなかったことを謝っていたけど、精子だけ提供してできた息子には自分は相応しくない父親だと思っていたに違いない。
俺みたいな存在を快く受け入れた本妻と娘は、俺を家に上げ、仏壇にお線香を上げさせてくれた。
その時、その家の娘、俺の半分血の繋がった姉になるわけだが、お腹が膨らんでたんだ。
俺と一回り離れてるから結婚しててもおかしくなかった。
姉は俺が若くして叔父になることを謝っていたけど、一人っ子だと思っていた自分に弟が居たことを喜んでもくれていた。
俺も同じく姉ができて嬉しいって言ったんだ。
俺は複雑な環境で誕生したけど、全然恥じる事もなかった。
本妻は正直悩んだかもしれないけど、俺が気にせず堂々としている姿にポロッと言ったんだ。
「若い頃の正晴さんに似ている」
そしてにっこりと俺に微笑んで、奥から若き日の父の写真を見せてくれた。
自分でもなんとなく似たところがあるって思ったよ。
父はとても頭がよかったらしい。
だけどそれを活かすのが下手だったとも聞いた。
俺の母は、頭は悪かったかもしれないけど、いざ頑張ったことを活かすのは上手かった。
それを照らし合わせた時、俺は二人のいいところを受け継いだかもしれないって、思うようになった。
そこで一からやり直してみたくなって、俺は出席日数がギリギリだったため留年することを選んだんだ。
これが俺の話って訳だ。
長い話だった。
手に持っていたグラスのソーダの氷が殆ど溶けていた。
それを一気に飲んだらとても水っぽかったけど、でも喉にすっと流れていくのが気持ちよかった。
近江君は照れくさそうな顔をして、自分が上手く話せたか気になっている。
「とてもいい話だった」
「自慢できる話でもないんだけど、中々いいネタにはなりそうだろ」
私は全てを話してくれた近江君がその時、もっと好きになっていた。
「今は面白半分に笑って話せるけどさ、当時はそれなりに悩んで色々と苦しかった。母もそして父とその家族も、きっとそれぞれの辛いことがあったと思う。そう思ったら、すーって楽になったんだ。遠山もさ、早く悩みが解決するといいな。そしてブンジの悲しみが早く癒える事願ってる」
「ありがと」
「それじゃ、ここからはブンジの弔いだ」
「えっ?」
近江君は部屋の奥に行ってしまった。
再び戻ってきた時、手に何かを二つ抱えていた。
その一つを私に差し出す。
私は戸惑いながら、それを受け取った。