毛づくろう猫の道しるべ
「毎朝早く起きて、バイクに乗って新聞配達する人が不良なの?」
「千咲都……」
「雨の日も濡れながら新聞を配達するんだよ。朝早く起きるのもつらいだろうし、寝る時間だって削られる。でも近江君しっかり勉強して、中間は学年で10番以内の成績だったんだ」
父はじっと俯いて聞いていた。
「バイクは危ない乗り物かもしれない。だけど免許は16歳から取れるんでしょ。法律が許可してたら、乗ったってなんの咎めもない。近江君は私を元気つけるためにやってくれたことで、いい加減な気持ちで運転してた訳じゃない」
「でも親としたらやっぱり心配する」
「私が心配掛けたことは謝るわ。心配を掛けたのは自らバイクに乗った私の責任であって、近江君じゃないの。なのに論点をずらして、近江君を不良だと決め付けて侮辱するのはおかしいわ。私が言いたいのはそこなの」
父は持ってたカップを静かにテーブルに置いた。
「そうだな、千咲都の言う通りだな。あの少年を不良呼ばわりしたのは悪かった。すまなかった」
「謝るのは私にじゃないわ」
「わかってるよ」
父は面映く新聞を引き寄せ、いつものように読み始めた。
母は何かを思案しながらマグカップを何度も揺らして、コーヒーを見つめていた。
何も言わないところみると、母も忸怩たる思いなのかもしれない。
近江君が配達したその新聞は、この日一層テーブルの上で浮き立って見えた。
これで一応の親子の確執は終止符を打った。
父とここまでいい合いをして反抗したのは私にとって初めてのことだった。
私も反省すべき事はあるだろうけど、でもこれだけは譲れない思いがあった。
父と本音でぶつかり合ったことはよかったとさえ思える。
納得いかない事は話し合ってお互い少しずつ譲歩して妥協点をみつけてこそ、そこに理解力が深まっていく。
どちらか一方がわだかまっていたら、いい関係は築けない。
満足いく結果が得られた時、私はまた父の顔を見て笑うことができた。
それは本心から出てきた笑みだった。
その時、私は何か大事な事を思い出したみたいにハッとし、そしてゆっくりとコーヒーを口に含み、ゴクリと喉に流し込んだ。
「千咲都……」
「雨の日も濡れながら新聞を配達するんだよ。朝早く起きるのもつらいだろうし、寝る時間だって削られる。でも近江君しっかり勉強して、中間は学年で10番以内の成績だったんだ」
父はじっと俯いて聞いていた。
「バイクは危ない乗り物かもしれない。だけど免許は16歳から取れるんでしょ。法律が許可してたら、乗ったってなんの咎めもない。近江君は私を元気つけるためにやってくれたことで、いい加減な気持ちで運転してた訳じゃない」
「でも親としたらやっぱり心配する」
「私が心配掛けたことは謝るわ。心配を掛けたのは自らバイクに乗った私の責任であって、近江君じゃないの。なのに論点をずらして、近江君を不良だと決め付けて侮辱するのはおかしいわ。私が言いたいのはそこなの」
父は持ってたカップを静かにテーブルに置いた。
「そうだな、千咲都の言う通りだな。あの少年を不良呼ばわりしたのは悪かった。すまなかった」
「謝るのは私にじゃないわ」
「わかってるよ」
父は面映く新聞を引き寄せ、いつものように読み始めた。
母は何かを思案しながらマグカップを何度も揺らして、コーヒーを見つめていた。
何も言わないところみると、母も忸怩たる思いなのかもしれない。
近江君が配達したその新聞は、この日一層テーブルの上で浮き立って見えた。
これで一応の親子の確執は終止符を打った。
父とここまでいい合いをして反抗したのは私にとって初めてのことだった。
私も反省すべき事はあるだろうけど、でもこれだけは譲れない思いがあった。
父と本音でぶつかり合ったことはよかったとさえ思える。
納得いかない事は話し合ってお互い少しずつ譲歩して妥協点をみつけてこそ、そこに理解力が深まっていく。
どちらか一方がわだかまっていたら、いい関係は築けない。
満足いく結果が得られた時、私はまた父の顔を見て笑うことができた。
それは本心から出てきた笑みだった。
その時、私は何か大事な事を思い出したみたいにハッとし、そしてゆっくりとコーヒーを口に含み、ゴクリと喉に流し込んだ。