毛づくろう猫の道しるべ
 希莉は私が本心で向かってくることを待っていたんだ。

 それは私が気がつかなければ、人から言われてできることじゃない。

 希莉はそこをいいたかったんじゃないだろうか。


 人にいつもいい顔していたら、主体がなくてただの八方美人。

 そういうのを見ていたら、私だって白けて楽しくない。

 私は本当に無理をしていた。いいように思われたいと体裁を繕うだけで、偽りで笑ってばかりだった。

 つまらないしがらみに自分自身縛りつけ、臆病になっていた。

 でももう怖がらないで、一歩足を踏み出そうと思う。

 ブンジと近江君が勇気付けてくれた。

 私だって、一言希莉に言わなくっちゃ。


 朝、これほど学校に行くのがもどかしいと思った事はなかった。

 電車はのろく感じられ、人々が私の行く前を邪魔する。

 先走る気持ちが、周りの全てを障害物に変えていくようだった。

 足に力を入れ、無理に早足で歩いたものだから、足は攣りそうに強張っていた。

 おまけ暑さも増して夏の到来を感じ、汗も噴出してくる。

 学校についた時は、喉がからからで、廊下に備え付けられていた冷水気でごくごく水を飲んでしまった。

 濡れた口許を豪快に手の甲で拭い、私は体に力を込め、教室に向かった。


 教室に足を踏み入れれば、すぐさま希莉の姿が目に飛び込んだ

 いつもなら私の方が早く来ているのに、この日は早く登校していた。

 前日の私が取った態度をずっと気にしてたに違いない。

 希莉もまた私と同じように悩んでいた。

 悩みながらも頑固に自分を貫き通していた。

 私が気がつくのをひたすら待って。

 希莉は私を待っていたように、ゆっくりと向かってきた。

 私も引き寄せられるように希莉に近づいた。

 お互いの顔を見合わせた時、同時に口が開いた。


「話があるの」

 息ぴったりに声が重なった。


「えっ」

 その重なりに驚いた声もまた息ぴったりだった。


「何?」

 二度あることは三度もあった。

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