毛づくろう猫の道しるべ
 口々に賛成してくれる人が増え、その気になってくると先生も認めざるを得なくなった。

「それじゃ仕方ないな。こうやってみんなで協力するという一致団結もホームルームとしての意義があるもんだ」

 私はほっとして顔が緩んでいた。

「それじゃ皆さん黒板の前に集まって下さい」

 椅子を引く音が一斉に聞こえ、皆立ち上がりだした。

 ふざけあいながら黒板の前に集まってくる。

 どこに立てばいいのか聞いてくる人もいたが、好き勝手に並んでもらった。

 この際、順番はどうでもいい。

 とにかくみんなが全員写ればいい。

 私は用意していたデジタルカメラを取り出して、写り具合を確認していた。

「前の人ちょっと屈んで下さい。端の人もう少し内側へ寄って下さい」

 黒板の前は生徒が集まってえらいことになっている。

 近江君は遠慮がちに後ろの端に位置していた。

 私は写真を撮ろうと構えた。


「遠山がシャッター押すんだったら、クラス全員で撮ったことにならないぞ」

 先生が指摘すると、自分でもそうだったと気がついた。

「それ、自動シャッターできないのか?」

 誰かが言った。


 私がカメラを見ながらモジモジしてると、近江君が側にやってきた。

 誰かがからかってヒューヒューと囃し立てた。
 
 近江君は机の上に椅子を置きそして自動シャッターの準備をしてくれた。

「遠山、先に加われ」

 前の列にいた希莉と柚実が手を招いて私を呼んだ。

 私はそこへ身を寄せる。

「それじゃ、準備はいいか。押すぞ」

 近江君がシャッターを押して走ると、素早く私の横に腰を屈めて入り込んだ。

「俺はここがいい。お前らちょっとどけろ」

「おい、押すなよ」

 その時、一部が崩れて倒れ込んでしまった。

 みんなが「あっ」と声を出した時、フラッシュが焚かれシャッターが下りた。

 クラス全員がそのタイミングに大笑いしていた。

「もう一度だ! 今度はちゃんとしろよ」

 先生がそういうと、近江君はまたさっきと同じように自動シャッターの用意をしに戻っていった。

 準備が整うと、二度目も、やっぱり私の側に来てくれた。

 二回目は無事に撮れ、失敗した分も含め、結局みんなが画像を欲しがった。

 私はフリーアドレスを持ってたので、黒板にそれを書いた。

「画像が欲しい人は、このアドレスに空メール送って下さい。返信で添付します」

 自分でも大胆なことをやったと思っていた。

 先生に感謝の言葉を告げ、私は満足して自分の席に戻った。

 結局そうしているうちにホームルームは終わってしまった。

 休み時間、希莉と柚実がやってきて、私の行動力に感心していたが、二人は私の意図に気付いてないようだった。

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