毛づくろう猫の道しるべ
 一度常盤さんと心を通わせれば、不思議と打ち解けてしまい、常盤さんも気軽に私に話しかけるようになった。

 そして、部活が終わって一緒に帰りを共にしてきた時、私に訊いてきた。


「あんなかっこいい草壁君が、あなたにアプローチしてるのに、どうして好きにならないの?」

「草壁先輩は犬好きだから。私は猫が好きなんです」

 明確な答えになってなかったが、常盤さんは笑っていた。


 見かけが好みだと、すぐさま心に入り込んで好きという感情が芽生えやすいかもしれないが、私の目に映ったとき、それは恋をする根拠にはならない。

 私は自分を偽って嫌われたくないと保守的になることに疲れてしまった。

 何でも話せない人じゃないと、私は付き合えない。

 そしてやっぱり犬より猫が好きだと言ってくれる人じゃないと、嫌。

「そうよね、やっぱり自分と合うかが一番の問題よね。それで私の彼もね……」


 あっ、始まった。

 結局は常盤さんは自分の恋をのろけたいのだ。


 その時の常盤さんがとてもいじらしくて、可愛く見えるから不思議だった。

 一時はナマハゲのように追いかけられて、思いっきり睨まれていたというのに。

 人はこうも変われるものなのだろうか。

 近江君も、私が見てきた姿と、過去の姿とでは違うと聞いた。

 自分でもかなりの不良だったとは言っていたが、そんな近江君の姿が私には想像できなかった。


 常盤さんの彼氏の話が一段落した時、質問してみた。

「常盤先輩は、近江君の事知ってますか?」

「うん、知ってる。金髪に染めてすごい派手だった。それでも結構持ててたわ。今思うと草壁君より人気があったかも」

「えっ、そうなんですか」

「目立ってたからね。ちょっとした悪っぽい感じがドキドキするっていうのか、それに女性には優しくて扱いが上手かったの。かなり手馴れている感じだった」

< 247 / 259 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop