毛づくろう猫の道しるべ
 非常に物怖じしないぶっきら棒さがあり、はっきり言ってあのダサい髪型からどこか程遠い何かを感じてしまう。

 やっぱり心に引っかかるほど不思議な人だった。

 
 テスト結果も全てわかり、また期末テストまでは暫く羽根を伸ばせそうな、そんなだらけた日々が戻ってきて、誰もが気が緩んでいたと思う。

 梅雨に入って雨も多く、ジメジメしてもいるが、本格的な夏に向かい、気温も上昇中で、汗ばむことも多くなった時だった。

 それでも近江君は相変わらず、休み時間一人で黙々と机については本を読んでいた。

 近江君には休息というのはないのだろうか。

 やっぱり私は気がつくと近江君を見てしまっていた。

 近江君はその時、大きな欠伸をしていた。

家でも勉強していて寝不足なのかもしれない。

 そんなある日の放課後、希莉と柚実と一緒に帰るつもりで、校門まで歩いていたけど、不意にトイレに行きたくなってしまい家まで持ちそうもないと思うと、また校舎に戻ってしまった。

 二人には待たせるのは悪いと思い、ちょっと忘れ物したと嘘方便に言って、すでに先に帰ってもらった。

 生徒達は下校するか、クラブ活動に励むかで校舎内の生徒の数はまばらで、静かなもんだった。

 誰もいない事をいいことに、いつもは使わない上級生のクラスが並ぶ廊下の端のトイレを使った。

 そこが一番近かった。

 用を足してすっきりとした気分でトイレから出て、帰ろうとしたその時、近江君が見知らぬ男子生徒数人に囲まれていたのが視界に飛び込んできた。

 あの髪型だからすぐに判別できた。

 だけど周りの男子生徒が、自分の学年で見かけるような人達じゃないように思えた。

 しかも上級生のクラスがあるところだし、この状況はとてもやばいものに思えてならなかった。

 近江君が、体つきのいかつい大きな男と向かい合い、何かを言われて顔を歪ませ困っている。

 それをまともに見てしまった私の心臓はドキドキと早鐘をうち、私の体に力が入ってきゅっと締め付けられるように硬くなった。

 ハラハラと落ち着かないまま立ちすくみ動けなくなってしまう。

 近江君が大ピンチ。

 そのとき虐めという単語が、頭の中でチカチカと点灯するように警告を発していた。
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