毛づくろう猫の道しるべ
 仕方がないので、弟の部屋のドアを叩いて、入っていった。

 机に向かっている弟が、鬱陶しそうに私に振り向いて、露骨に顔を歪めた。

「なんだよ。勝手に入ってくるなよ。俺、今宿題してるんだけど」

「あのさ、なんか面白い小説持ってない?」

「小説? 何すんだよ」

「もちろん読むに決まってるでしょ。あったら貸してよ」

 どんな本を持っているのか知りたくて、勝手に弟の本棚を物色する。

「ちょっと、勝手に触るな」

 弟は荒ぶりたい年頃で、私との接触を嫌がる。

 丁度難しい中学二年生のときだから、一度は通る道なのだろう。

 小さい時はまだ可愛げがあったのに、身長も私より少し高くなって、ふてぶてしくなった。

 弟が嫌がるのも気にせず、遠慮なく本を手にとってみる。

「ちょっとこれ何よ、ゲーム攻略本とか、漫画ばっかり」

「人の事言えるのかよ」

 もちろん言えない。

 かろうじて字が詰まった小説と呼べる本があったので、それを借りることにした。

 しかし、表紙は漫画みたいな絵が書いてあって、内容がなさそうな本だった。

 私の持ってる漫画よりかは、活字で埋められてるからまだましだったけど。

「これ借りるね」

 それを手にして部屋をでようとしたとき、弟が話しかけてきた。

「姉ちゃん、最近さ、ブンジよく吐くよね」

「昨日もやってくれたしね。猫は毛玉とか胃に溜まるとすぐに吐いちゃうし、よくあるから仕方ない。お蔭で今日一日大変だったんだから」

「なんでブンジが吐いたら、姉ちゃんが大変になるんだよ」

「連鎖反応でそうなったの。今、お姉ちゃんは高校で大ピンチなの。あーあ」

「変なの」

 弟の部屋のドアを閉めた後もまたため息が出ていた。

 夕飯を食べるときも、あまり食欲がなくご飯が喉に通らなかった。

「あら、チーちゃん、ダイエットなの?」

 母は暢気に軽々しく言ってくれる。

 その隣で父は新聞を読みながら、茶碗だけを母に向けた。

「お母さん、ご飯お代わり」

 二人とも私がどれほど悩んでいるか知る由もなかった。

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