毛づくろう猫の道しるべ
 その時の希莉がなんだか寂しそうで、また気分を害しているようにも見えて、私は耐えられなくて結局顔を背けてしまった。

 辺りはガヤガヤとうるさく、お昼のリラックスした雰囲気が漂う中、私は気まずい思いを抱いてお弁当の蓋を開けた。

 最初に目に飛び込んだのはレンコンの煮物だった。

 それを箸でつまんで穴を覗き込む。

 見通しがよくなりますようにと口に入れたとき、誰かが私に話を振ってきた。

「遠山さん、草壁先輩と親しくなったって本当なの?」

 好奇心でランランとした目を私に向けた。

「えっ、違うって。あれは本当にただの偶然で、決して親しい訳ではないの」
 私は必死に否定する。

「草壁先輩って誰?」

 知らない人もいたから、話を持ち出した人は得意げになって説明していた。

 その人の話によると、草壁先輩はサッカー部のエースで女生徒からのファンも多く、そのハンサムな風貌から学校のアイドルになっているらしい。

 私はそんな事も知らずに、ゴリラの出渕先輩の手紙がきっかけで、そこに居たから助けて貰ったけど、そんな話を聞いて大それた事をしてしまったと、また恥かしさがこみ上げてくる。

「遠山さん、すごい。そんな人と親しいなんて」

「だから違うの」

「でもさ、草壁先輩ってサッカー部のマネージャーと付き合ってるんじゃなかったっけ?」

「そんな噂も聞くね。だったら遠山さんと三角関係ってことなの?」

 そんな馬鹿な。

 思わず絶句してしまった。

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