毛づくろう猫の道しるべ
「これ、もらい物なんですけど、家で誰も食べなくて、よかったら部活の皆さんで食べて下さい。練習の後の甘いものもエネルギー補給になりますよ」

 私は無理にチョコレートの箱を押し付けると、受け入れざるを得ずに草壁先輩は戸惑いながら手にした。

「あ、ありがとう」

「それじゃ部活頑張って下さい」

 私は一礼し、その後は踵を返してその場を去った。

 途中でもう一度振り返ると、先輩はまだその場に立って私を見ている様子だった。

 私は見られていることが恥かしく、はにかんでもう一度振り向きざまに礼をして、早足でさっさと歩いていった。

 みんなの憧れの草壁先輩とあんな風に話せたことは、少し優越感に思ってしまう。

 でもそこには、先輩後輩という上下関係と、自分には関係ないという他人事の気持ちが入り込み、自分の中では一過性のものとして、その後はさほど気にならなかった。

 それよりも、サクライさんの方に興味が湧いてくる。

 一体どんな人なのだろうか。

 友達に後押しされてまで、草壁先輩と付き合いたいと切望しているなんて。

 五人の先輩達に取り囲まれた時はさすがに戦慄を覚えたけど、その反面、一致団結して一人の友達のために行動を起こせる事にも感心してしまう。

 私なんて希莉と仲たがいしてしまっても、誰も慰めてくれないし、協力もしてくれない。

 また明日をどのように過ごせばいいのだろうか。

 草壁先輩とまた会ったことをダシに、相田さんのグループに入り込んでやり過ごそうか。

 いやいや、そんな事を自慢げに話してもその場凌ぎなだけで、結局は親しい友達になれそうもない。

 希莉や柚実とまた楽しく過ごしたい。

 だけど希莉が頑なに私を受け入れないのはなんでなのだろう。

 私は希莉に好かれたくてたまらないというのに。

 ぼんやりと考え事をしながら下校していたので、まさかその先でサクライさんのための五人衆が自分を待ち伏せしている可能性を想像することができなかった。

「ちょっと、あんた」

 鋭い睨みを利かした団体の目が一度に私に向けられた。

 思わず「ひえぇぇ」と叫びそうになるところを、必死で息を飲み込んだ。

「下級生の癖にかなり生意気ね。いい根性してるじゃないの」

 駅に近い繁華街。

 道行く人がすれ違うも、ちらっと視線は投げかけていくのに、その後は素通りしていく。

 誰も助けてくれない。

 事情を知らないから当たり前だが、これだけ人通りがあれば、暴力は奮われないだろう。

 いざという時は人混みに紛れて逃げればいいと思ってた矢先、五人衆の一人が素早く私の腕を取るなり、逃れないように組んで密着させた。

 まさかがっちりと拘束されるとは思わなかった。

 そのまま人通りをさけて端の方へと移動させられた。

 気が動転して青ざめた顔で、怖いお姉さま方をぐるりと見回す。

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