スワロウテイル
プロローグ
一年の半分近くが雪に閉ざされる田舎町、N県の県庁所在地から更に車を2時間走らせたところにある霧里町(きりさとまち)。

この町には、全国的には大して有名でもないけれど県内の人間なら誰でも知っている大きな神社があった。加賀美神宮(かがみじんぐう)という名前だが、霧里町では神社といえばここを指すので正式名称で呼ばれることはほぼ無い。

神社の入り口は2カ所あり、正面の大きな鳥居に繋がる広い通りは表道と呼ばれている。もう一つはお社の裏手に繋がる細い抜け道。こちらにも年季のはいった小さな鳥居があるものの、朱の色が剥がれ落ちても補修もされず放置されている。雑草も好き放題に伸びきっており、こちらの入り口を使う参拝客はゼロに等しい。

こちらの道は裏道と呼ばれていた。

神社の裏道には、幸運のおまじないなのか怪談話なのかよくわからない言い伝えがある。

町の中高生なら皆が知ってる。
10年前の中高生も、20年前の中高生も。つまり、この話は霧里町で生まれ育った人間なら老いも若きも一度は耳にしたことがあるほどにメジャーなのだ。

長年語り継がれてきて、しっかりと地域に根をはっているはずなのに、その中身はひどく曖昧だった。


『綺麗な赤い蝶なんだって!未来の自分の姿を見ることができるって』

『その蝶を追いかけていくと、過去に戻れるって聞いたけど‥‥別に嬉しくねーよな』


『血のような赤色をした蝶だよ。万が一、見つけちゃったらすぐに目を閉じて。蝶が見せるおかしな映像を見ると不幸になるからね』

『20歳をこえると、もう見れないらしいよ』


ーー裏道の蝶は不思議な幻を見せてくれる。その幻を見た者は運命が大きく廻り出す。


信じるか、信じないか。

それは貴方が決めること。


裏道の蝶は、貴方の側にもきっといる。








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