スワロウテイル
3学期が始まって数週間が経ち、身体もすっかりリズムを取り戻してきた。


ダン、ダン、ダンーー。

キュッ、キュッ、キュッーー。


ボールが床を跳ねる音とバッシュの底が擦れる摩擦音。耳に馴染んだ二つの音が
天井の高い体育館に反響する。

アップと基礎練をこなしてからのミニゲーム。部内の練習試合とはいえ、そろそろ新チームとしてレギュラーを確定させる時期だから、皆それなりに気合いが入っていた。

「ーー修っ」

味方からのパスをきっちり胸の前で受け取った修は、瞬時に目だけを動かして状況を確認する。

あ、前ガラ空きだーー。

ゴールまで一直線。自分の進むべきルートがしっかり見えた気がした。

「よしっ」

小さく呟いて一歩踏み出そうとした、その時だった。

「修っ。出せ、こっち」

斜め前にいた太田が大きく片手を上げて、アピールする。

太田の前にはディフェンスが二人。

修は迷った。 自分がいく方が点に繋がる可能性が高いと思う。
けど・・・

「早くっ」

太田が鋭い声で叫んだ瞬間、修は反射的にそちらにボールを出していた。

ボールを受けた太田は自信たっぷりに微笑むと、スピードのあるドリブルであっという間に敵を抜き去った。

そして、勢いのままにシュートモーションに入ると美しいフォームでボールを放った。

ボールはバックボードに触れることなく、綺麗にリングの真ん中に吸い込まれていった。

スリーポイントだ。
なんて鮮やかな攻撃なんだろう。


味方はもちろん敵側からも『おぉー』という歓声が上がった。
1年の女子マネージャー達はきゃーきゃーと甲高い声援を太田に送っていた。

太田は現部員の中では圧倒的な実力で、1年の時からずっとレギュラーだ。
スリーポイントが高確率で決められるのなんて、太田だけだった。




「ナイスパス、修」

戻ってきた笑顔の太田とタッチを交わす。

そっか、ナイスパスか。
結果的にはそういうことになったのか。

もし、あのまま修がいって上手いことゴールできたとしても2点だ。
ディフェンスをかわせて、なおかつスリーポイントが打てる太田にパスしたのは大正解だったってことだ。

修はもやもやする気持ちに蓋をして、自分にそう言い聞かせた。

その後も太田の大活躍があり、修のチームが勝利した。
けど、修自身は大した活躍もできず楽しくも嬉しくもないゲームだった。
< 11 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop