スワロウテイル
「優しくて強いーーかぁ」

自分とは真逆っていうくらい遠いじゃないか。自分はずるくて弱い‥‥だ。

寺岡はああ言ってくれたけど、修は別に優しくなんかない。
自己を主張して他人と衝突するのが面倒だから、ただ避けているだけだ。

「げっ」

鼻先に触れた冷たい感触に上を見上げれば、すっかり真っ暗になった空からはらはらと雪が舞い降りてきた。

今ははらはらとなんて情緒的な表現が似合うが、すぐにごうごうと暴力的な音をたてる吹雪へと変わるだろう。

修は足を早め、家へと急いだ。


月のない夜だけど、雪明りのおかげで辺りは薄明るくまるで白夜のようだ。
上を向いても、下を向いても、見渡す限りの真っ白な世界。

見慣れた景色のはずなのに、今日は違って見えた。

どこか幻想的で、知らない世界に繋がっているような気さえして、不安になる。

自分がとてもとても小さい存在だと改めて気づかさせられるような‥‥。

この大きな白い世界に呑み込まれてしまったら、きっと誰も修を見つけてくれないだろう。

きゅうっと胸が苦しくなり、修は思わず走り出していた。

もつれそうになる足を必死で前に進める。


早く、早く、早くーー。


自分は何から逃げているんだろう。

バスケから?

進路から?


それとも、自分自身から?


わからない。

わからないけど、音のない真っ白な闇の中をひたすらに走り抜けた。
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