スワロウテイル
季節外れの転校生ってことで初めは遠巻きに見ていたクラスメートも、人当たりの良い五條に段々と打ち解けていった。そして、予想通りに女子からはカッコいいと騒がれていた。


五條は分け隔てなく皆と仲良くするけど、休み時間や教室移動の時なんかは修と行動することが多くなり周りもそれを当たり前のことと認識するようになっていた。修自身も背の高い五條が隣にいるのが、学校内での日常になった。


帰りのHRの終了をつげるベルが鳴る。

今日は体育館が全面バレー部に奪われたため部活が休みになり、五條と市内まで遊びに行く予定だった。

市内まではバスで40分。かったるいといえばかったるいが、町には古い喫茶店やスナック風のカラオケがある程度で男子高校生が時間を潰せるような場所はない。


正門を出てすぐの場所にあるバス停でバスを待つ。今日は数日続いた吹雪がやっと大人しくなり、久しぶりに太陽が顔を出していた。
降り注ぐ陽光は柔らかく、ようやく訪れたらしい春の気配を感じる。


「しかしさ、東京からこんな田舎に越してくるとヒマじゃねーの?休みの日とか何やってんの?」

修の問いかけに、五條は苦笑しながら答えた。

「もともとインドア派だからそうでもないよ。日曜は朝からテレビとか動画とか見てるかな?」

「朝からテレビ!? なんかイメージと違うな」

朝から読書ならしっくりくるけど、朝からぐうたらとテレビを観る五條はあんまり想像できなかった。

何観てんの? と修は軽い気持ちで聞いたのだけど、五條は何故かもったいつけた。

「・・・笑ってもいいけど、ひくなよ?」

「なんだよ、エロ動画?」


「・・将棋。名人戦の中継とか観てる」


「マジ!?」

ぼそりと答えた五條の言葉尻にかぶせるように、修は勢いよく言った。
自分でもちょっと驚くような大声だった。

修は身を乗り出すようにして、更に言葉を続ける。

「将棋やる? 結構出来る方?
あ、もしかして観戦のみ派?」

五條は修のテンションに驚いたように目をパチパチさせる。

「えっと・・もしかして、修も将棋好きだったりする?」

「する、する!! 親父しか相手してくんないんだけど、すげー好き」

例え五條が観戦派だったとしても、将棋という男子高校生には渋すぎる趣味の話をできるだけで修には嬉しいことだった。

父親に教わった将棋に修は一時期のめりこみ、あっという間に父親を追い越してしまった。最近はあまりにも連勝続きなので、父との勝負がすっかりつまらなくなっていたのだ。


子供みたく目を輝かせる修に五條はぷっと吹き出した。

「めちゃめちゃ上手いわけじゃないけど、普通に指せるよ。俺も相手がいなくて、観る専門になってただけ」

その言葉に修はますます顔を緩ませた。

「よしっ。市内まで出るの中止な。
今からうち来いよ。 勝負しようぜ」

五條の答えを聞く前に修はバス停に背を向け、自宅へと向かって歩き出した。

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