スワロウテイル
「案外、そのみちるちゃんも同じこと思ってるかもよ」

五條は''飛車''の駒をもてあそびながら、クスリと笑った。

「え?」

「学校で、修を知らない奴もあんまいないと思う。クラスの誰と話してても、修が〜修が〜ってお前の話になるもん。

みちるちゃんの方も、修とおんなじ悩みを抱えてるかもね」

修は目を見開いて、五條を見つめた。
五條の言っていることが瞬時に理解できなかったのだ。それを察した五條が言葉を重ねた。

「修みたいな人気者の幼馴染ってのも、結構つらいんじゃない?」

みちるが俺と同じことで悩んでる!?
いや、それはないだろ。
百歩譲って修が学校の人気者だったとしても、みちるの性格からしてそんな事は何とも思わないだろう。

「いや〜それは絶対ないわ。絶対ないけど・・・ありがと。やっぱ、お前っていい奴だな」

修の胸の奥底でくすぶっていた下らない劣等感や嫉妬心が五條の言葉でふっと軽くなった。

修が単純なのもあるかも知れないけど・・五條の言葉は何か特別な力でもあるみたいに、すぅと修の心に染みていって汚れを洗い流してくれるようだった。


それから、修と五條は暇を見つけては将棋を指すようになった。

季節は流れ、3年生の先輩達を送り出し冬休みより更に短い春休みを迎えていた。

その日も、五條が昼過ぎから修の家に遊びに来ていた。『良かったら夕飯も一緒にどう?』という修の母の誘いを断って
、五條は帰るところだった。


「待って、五條。 俺もコンビニ寄るから途中まで一緒に行くわ」

修は今日が愛読している漫画雑誌の発売日だったことを思い出して、五條の背中に声をかけた。

徒歩圏内にたった一つしかないそのコンビニは都会とは違って22時には閉店してしまう。それでも、あるのと無いのでは大違いだ。潰れてしまっては非常に困るので、微力ながら売上に貢献しようと修は漫画雑誌は必ずそこで買うことにしていた。

修が慌ててスニーカーに足を突っ込み外に出ると、五條は軒先で立ち止まっていた。

「どうした?」

「‥‥見ればわかるって本当だったんだ」

五條の視線の先にはみちるがいた。
まだひやりとした冷たさの残る春の風に、みちるの淡い栗色の髪がふわりと揺れていた。
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