スワロウテイル
「なるほど。たしかに学校で一番どころか間違いなくこの町一番の美人だね」

五條はそう言って頷いたけど、他の男みたくみちるを見て舞い上がるようなことはなかった。
やっぱり東京からきた奴は違うんだなと修は心の中でつぶやいた。

二人の気配に気がついたのか、みちるがゆっくりとこちらに顔を向けた。


「みちる〜ちょっとこっち」
修は片手を上げ手招きをする。
ちょこんと修の隣に立ったみちるに五條を紹介する。

「うちのクラスに転入してきた五條。東京から来たんだって」

五條はみちると目を合わせると、にこりと微笑んだ。
初めてクラスで自己紹介した時と同じく、思わず見惚れてしまうあの笑顔で。

五條の魔法はみちるでさえも虜にしてしまうようだった。

大きな瞳でじっと五條を見つめるみちる。とろりと蜜を溶かしたように濃密な時間が流れ、スポットライトは二人だけを照らしていた。


修は一瞬で理解した。

あぁ、これがそうか。

恋に落ちる瞬間‥‥ってやつだ。

そして、自分がすっかり舞台を見上げる観客のひとりになってしまったことにも修は気がついていた。

「修? みちるちゃん?」

理由は違うがそろってぼうっとしている修とみちるの顔を五條が不思議そうに見比べた。
みちるは五條に呼びかけられ、焦ったように目を逸らした。ほんのりと頬が赤く染まっているような気がする。

こんな風な、普通の女の子みたいなみちるを修は初めて見た。
五條はかっこいいし、中身もいい奴だ。
みちるが恋をしても不思議じゃない。

頭では納得できることだった。
だけど‥‥

みちるに特別な誰かが出来るかもしれない。

そう思うだけで、修の心はざわざわと波立った。
小さな波紋はあっという間に大きくなって、足元をおぼつかなくさせる。

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