スワロウテイル
「修は? あんまり真剣に考えてなさそうだって佳子先生心配してたよ」
みちるは言いながら、紅茶の入ったペットボトルに手を伸ばす。
みちるの白い喉が上下するのを眺めていると、修の胸の内に理不尽な苛立ちがこみ上げてきた。
温厚な性格だったはずの自分はどこへ行ったのだろう。
今は視界に入る全てのものに無性にイラついた。
「俺は適当に入れそうな地元の大学。落ちたら、専門学校でいいや。みちるや五條と違って、大して成績も良くないしな」
投げやりに放たれた修の言葉で、二人の間を流れる空気が冷たくなる。
みちるは修から目を背け、唇を噛み締めている。修もみちるに背を向けるように身体の向きを変えた。
少しの間を置いて、口を開いたのはみちるの方だった。
「‥‥でいいや なんて言える余裕のある人はいいよね」
絞り出したようなみちるの声には、明らかな怒りが滲んでいた。
「そんな適当な気持ちで、当たり前のように親にお金を出してもらって‥‥修は自分が恵まれていることに無頓着過ぎるよ。 いくらだって、頑張れる環境があるのに‥‥」
今にも泣き出しそうに震える声が修の背中に突き刺さる。それは小さな棘が刺さった時のように、じくじくと痛み出した。
修はみちるに背を向けたまま喋り出した。自分でも何を言おうとしているのか、わからない。
「東京を目指すのがそんなに偉いのかよ⁉︎ みちるはさ、ただ今の場所から逃げたいだけだろ?
東京行こうが、地球の裏側に行こうが、自分の居場所なんて見つからないよ。
どんなに環境変えたって、自分が変わらなきゃ意味ないだろ」
ひと息に言ってから修は我に返った。
ひどい八つ当たりだ。
前に進もうとするみちるに、自分から離れていくみちるに嫉妬してわざと傷つけるような言葉をぶつけた。
謝らなきゃ。そう思ってゆっくりとみちるを振り返った。だけど、傷ついたみちるの顔を見たら言葉は何も出てこなかった。
「わかってるよ。そんなこと、自分が一番‥‥」
みちるは目を伏せ、消え入りそうな声でそれだけ言った。伏せられた長い睫毛が濃い影を落としている。
「みちる‥‥」
修の呼びかけに答えることなく、みちるは部屋を出ていった。
一人取り残された部屋で、修は呆然と立ち尽くした。
みちるが修の母親の元へ相談にくる時は本当に困っているか悩んでいる時だけだ。
みちるらしくないか細く震えた声、傷ついたように濡れていた瞳。
きっと本当に悩んでいたのに‥‥。
「最低だ。俺‥‥」
受け止める相手のいない言葉はぽっかりと宙に浮かんで、後悔をより深くさせた。
みちるは言いながら、紅茶の入ったペットボトルに手を伸ばす。
みちるの白い喉が上下するのを眺めていると、修の胸の内に理不尽な苛立ちがこみ上げてきた。
温厚な性格だったはずの自分はどこへ行ったのだろう。
今は視界に入る全てのものに無性にイラついた。
「俺は適当に入れそうな地元の大学。落ちたら、専門学校でいいや。みちるや五條と違って、大して成績も良くないしな」
投げやりに放たれた修の言葉で、二人の間を流れる空気が冷たくなる。
みちるは修から目を背け、唇を噛み締めている。修もみちるに背を向けるように身体の向きを変えた。
少しの間を置いて、口を開いたのはみちるの方だった。
「‥‥でいいや なんて言える余裕のある人はいいよね」
絞り出したようなみちるの声には、明らかな怒りが滲んでいた。
「そんな適当な気持ちで、当たり前のように親にお金を出してもらって‥‥修は自分が恵まれていることに無頓着過ぎるよ。 いくらだって、頑張れる環境があるのに‥‥」
今にも泣き出しそうに震える声が修の背中に突き刺さる。それは小さな棘が刺さった時のように、じくじくと痛み出した。
修はみちるに背を向けたまま喋り出した。自分でも何を言おうとしているのか、わからない。
「東京を目指すのがそんなに偉いのかよ⁉︎ みちるはさ、ただ今の場所から逃げたいだけだろ?
東京行こうが、地球の裏側に行こうが、自分の居場所なんて見つからないよ。
どんなに環境変えたって、自分が変わらなきゃ意味ないだろ」
ひと息に言ってから修は我に返った。
ひどい八つ当たりだ。
前に進もうとするみちるに、自分から離れていくみちるに嫉妬してわざと傷つけるような言葉をぶつけた。
謝らなきゃ。そう思ってゆっくりとみちるを振り返った。だけど、傷ついたみちるの顔を見たら言葉は何も出てこなかった。
「わかってるよ。そんなこと、自分が一番‥‥」
みちるは目を伏せ、消え入りそうな声でそれだけ言った。伏せられた長い睫毛が濃い影を落としている。
「みちる‥‥」
修の呼びかけに答えることなく、みちるは部屋を出ていった。
一人取り残された部屋で、修は呆然と立ち尽くした。
みちるが修の母親の元へ相談にくる時は本当に困っているか悩んでいる時だけだ。
みちるらしくないか細く震えた声、傷ついたように濡れていた瞳。
きっと本当に悩んでいたのに‥‥。
「最低だ。俺‥‥」
受け止める相手のいない言葉はぽっかりと宙に浮かんで、後悔をより深くさせた。