スワロウテイル
翌日。
よく眠れなかったせいでどんよりと重い頭を抱えながらも、修は退屈な授業をなんとか乗り切った。
修の気持ちを写したかのように、窓の外に広がる空も灰色がかった厚い雲に覆われていた。

一日の終わりを告げるベルが鳴り響くと、これまでの静寂が嘘のように教室内は喧騒に包まれる。
机や椅子の動くガタガタという音、女子の甲高いしゃべり声。
修の耳はそれらの音をただのBGMとして聞き流していた。

部活に出る気分にはどうしてもなれなくて、今日は休むことに決めた。
サボリなんて初めてのことだ。


修がノロノロと下駄箱に向かって歩いていると、背中から声がかかった。

「修〜。待って、待って。一緒に行こ」
短めのスカートの裾をひらひらと揺らして長洲が走ってくる。

「ごめん。俺、今日は休む」

修は短く言った。
体調が悪いとか、急用がとか、そんな言い訳をする気力もわかなかった。

長洲はなぜかちょっと嬉しそうに笑って言った。

「わぁ〜。じゃあ、今日は私もさぼっちゃお。 途中まで一緒に帰っていい?」

修はいいともダメとも言わなかった。
それを肯定と判断したのか、長洲は修の隣に並んで歩き出す。

もちろん、誰かと話したい気分なんかじゃない。だけど、一人でいるよりはマシかも知れない。


「修ってさ、五條君と仲良いよね?」

校門を出て人が少なくなってきたあたりで、おずおずと長洲が口を開いた。

突然出てきた五條の名前に修は内心びくりとしたけど、長洲は気にも留めていなかった。

「五條君が転校してきた理由とかって‥‥聞いたことある?」

「いや、最初に聞いたけどあんまり話したそうじゃなかったから。 家の事情とかじゃないの?」

そういえば五條は珍しい時期に転校してきたんだったな。 まだそこを気にしてる奴がいるのか。

「‥‥やっぱり、修はあの話知らないんだね」

長洲が独り言のように小さくつぶやいた。

「え⁉︎ 今、なんて言ったの?」

「ううん。 なんでもないよ」

長洲はにこりと笑って、話題を変えた。
五條はファンが多いから色々と詮索したい奴もいるんだろうな。
修はそんな程度に考えて、深く気に止めたりはしなかった。
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