スワロウテイル
修はまっすぐに続く舗装もされてない砂利道をあてもなく歩いていた。
家へと向かう曲がり角は気がついた時には通り過ぎていた。

朝から変わらずの曇り空、風もなくあたりはシンと静かだった。

ザッ、ザッ、ザッーー。

修の靴が砂利を踏み締める音だけが響いていた。



みちるの顔、長洲の顔、五條の顔、頭に浮かんでは消えていく。

みちるへの気持ち。

長洲になんて返事をしようか。

五條とずっと将棋をしていないこと。


自分の進路。

中途半端な気持ちで続けている部活。

考えれば考えるほど、深みにはまっていくようで抜け出せない。

ふと気がついた時には、修は雑草が覆い茂る細道に入りこんでいた。
加賀美神宮という神社の裏道だ。
忘れ去られたかのように朽ちた古い鳥居が目の前に現れた。

「すげぇな。ますますひどくなってる」

修が鳥居に手をかけると、朱色の塗装がポロポロと剥がれ落ちた。

裏道に来たのは何年ぶりだろうか。
毎年の初詣は表道から入るから、小学生の時以来か‥‥。
大きな神社なのに、なぜ誰も手入れをしないのだろうか。
裏道の荒れっぷりは相当なものだった。


ざぁー、ざざぁー。


ふいに、神社の中から強い風が吹き上げてきた。

その風はひんやりと冷たい。

背筋がぞくりとして、きゅっと身が引き締まる。

ーー誰かいる? 神様?


典型的な日本人らしくいい加減であやふやな信仰心しか持たない修でも、何か特別な存在がすぐ側に来ていることを肌で感じた。


ぶわぁーと大きな音を立てて、無数の白い蝶が桜吹雪のように舞った。


不思議と恐怖はなかった。
魅入られたように修は蝶の群れを見つめていた。

すると、蝶の群れの真ん中に燃えるような赤い色をした大きなアゲハ蝶がすぅと姿を現した。

真っ赤な蝶はまっすぐに修に向かって、飛んでくる。 ゆったりと、優雅に。

ーー吸い込まれるっ。

そう思った時には、修は優しいピンクの光に包まれた世界にいた。

楽園もしくは天国ーー。そこは暖かくて、清浄な空気が流れていて、時が止まったかのように静かだった。

視界を覆っていたもやが少し晴れて、遠くに人影が見えた。

「誰?」

そう言葉を発したつもりだったけど、
声にはならなかった。

人影は大人の男だった。男はその両手に幼い子供を抱いていた。 男の子だろうか。 野球帽をかぶっている。

男は優しげな口元をよりほころばせて、
誰かを呼ぶ。 声は聞こえない。だけど、その男にとって、とても大切な人だということはわかる。

呼ばれた声に応えるように、髪の長い女が男の元に駆け寄ってくる。
女は修に背を向けているので、顔はわからない。
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