スワロウテイル
互いを思いやっていることが伝わってくるような、幸せな家族。

ーーあれは誰なんだろう。

知らない男だ。
なのに、修はなぜか懐かしいような切ないような気持ちを抱いた。


すっきりした一重の目元、人の良さそうな穏やかな笑み、薄い唇の横のホクロ‥‥


「あっーー」

今度はしっかりと声になった。
その瞬間、またざぁーざぁーと強い風が吹きつけてきて修はぎゅっと目を閉じた。

次に目を開けたときには、あの家族は消えていた。

白い無数の蝶も、真っ赤なアゲハ蝶も。

修はパチパチと瞬きを繰り返したが、結果は同じだった。

修の視界には朽ちた鳥居と伸び放題の雑草があるだけだった。


「裏道の蝶‥‥」

思わずつぶやいた言葉は鳥居の奥にすぅと吸い込まれていった。


◇◇◇


修はまっすぐにみちるの家に向かっていた。

あれは、

裏道の蝶が見せてくれた男は、

未来の自分だ。
何年後かはわからないけど‥‥

裏道の蝶は見た者の運命を廻すという。

だけど、それが良い方向に向かうか悪い方向に向かうかは本人次第だ。

運命を良い方向に動かすことが出来るのは、自分だけ。

未来は誰にもわからない。だけど、確実に言えることはーー未来を作るのは今の自分だ。

あの女性は、未来の自分の奥さんは、もしかしたらみちるかも知れない。

それは、まだ手に入れることのできる未来だ。




修は走り出していた。

呼吸が荒くなり、心臓はドクンドクンと張り裂けそうなほどに大きな音を立てる。

だけど、修の足は止まらない。


早く、早く、早く。

前に、前に、前に。


何かから逃げるためじゃない。

望む未来を掴みとるために走るんだ。

それは今の自分にしか出来ないことなのだから。


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