スワロウテイル
みちるの家の前まで来て、修は立ち止まりポケットからスマホを取り出した。
通話履歴から目当ての名前を探す。

無機質な呼び出し音が途切れ、落ち着いた柔らかな声が応える。

『はい』

「もしもしっ、五條?」

『うん。どうしたの?』

修は空を仰ぎ、大きく息を吸い込んだ。

「‥‥俺‥‥今からみちるに告白してくるっ。そんで、その後さ、お前の家に遊びに行っていい?」

『えっ⁉︎ 別に構わないけど‥‥なんで?』

「ーー将棋。将棋しようぜ、五條」

一瞬の沈黙ののち、握りしめたスマホから五條の明るい笑い声が届いた。五條は本当に嬉しそうに笑った。


『修、頑張れよ』

力強いその言葉に背中を押され、修はみちるの家の旧式のインターホンをおした。すぐに、「はぁい」という声と玄関へと近づいてくる足音が聞こえてきた。


ドクドクドクドク。


身体中の血液がものすごいスピードで流れだす。全ての細胞が心臓になってしまったかのように、大きく早いリズムを刻む。

ーーガラッ。

引戸が開いて、みちるが顔を覗かせた。
帰宅したばかりなのか紺色のセーラー服姿だった。
澄んだ栗色の瞳が修をとらえる。



ーーあぁ、そうだった。

昔から、この瞳に自分が映るとそわそわドキドキして落ち着かなくて‥‥
だけど、誇らしくて嬉しくて。

ずっと、みちると過ごす時間はそれだけで特別なものだった。
そして、みちるにも同じように思っていて欲しかった。
みちるにとっての「特別な存在」になりたかったんだ。


この気持ちをどんな言葉にしたら、みちるに伝わるのだろう。

わからない。

わからないけど、伝えたい。

どうしても今、伝えたい気持ちがある。


修は意を決して、口を開いた。


「みちるっ。あのさ、俺ーーー」



相沢修の物語 fin
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