スワロウテイル
五月の下旬。ゴールデンウィークも終わってしまい休日の少ない六月を待つだけの学生にはちょっと憂鬱な季節。
今日は久しぶりに部活が休みだったので、沙耶はクラスの仲良しグループのメンバーに誘われてバスで市内まで遊びに来ていた。
市内とはいっても、特別なものがある訳ではない。
カラオケ、ファミレス、ファーストフード。映画館の入った比較的大きなショッピングセンター。それで全て。 あとはローテーションで行き先が変わるだけ。
今日はファーストフード店の番だった。客は沙耶達と同じ高校生か小さな子どもを連れた母親グループのどちらかといったところで、どのテーブルも一様に騒がしかった。
「ねーねー、来週から公開のヒロトの映画みんなで観に行こうよ?」
「行く、行く! 楽しみ〜」
梨香子が言えば、すぐになっちゃんが答える。
「あれ、原作の小説も超泣けるんだよね」
「そうなの? 私まだ読んでないや〜。
沙耶、読んだ?」
グループではリーダー格の絢香がポテトをつまみながら、沙耶に話をふった。
「読んだよー。もうね、途中から涙とまらなかった〜絶対おすすめ!」
沙耶はみんなのテンションに合わせるように、はしゃいだ声をあげる。
小説を読んだのは本当。涙が出たってところは真っ赤な嘘だ。
ーーあんな安っぽい話で涙なんか一滴も出ないって。
沙耶は心の中で自分につっこむ。
アイドルのヒロトが主演で、もうすぐ映画が公開になるその作品は少し前にベストセラーになった恋愛小説が原作だ。
クラスの女子の間でも流行っていたから、沙耶もとりあえず読んではみた。
ヒロインが難病にかかり最後は死んでしまうというベタ過ぎるストーリー展開で、後半は完全に斜め読みだった。
映画かぁ‥‥そんなお金があるなら、新しいマスカラ買いたいな。熱でも出したことにしてドタキャンしよう。
沙耶はそう結論づけると、少しだけ残っていたイチゴシェイクを飲み干した。
ポテトのSサイズとイチゴ味のシェイク。4人全員が同じものを注文する。
そんな些細なことですら、最近は窮屈に感じていた。
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる〜」
沙耶は小さな化粧ポーチを持って立ち上がった。
化粧室で鏡に向かうと、ふぅと小さく息を吐いた。 面白くも何ともない話に愛想笑いをするのって意外と疲れるものだ。
頬の筋肉がピクピクと痙攣しているような気がした。
沙耶は鏡に映る自分の顔をじっと見つめた。肩につくかつかないかくらいの長さの黒髪はヘアアイロンで毛先を内側に巻いている。
紺色のセーラー服に白いリボンという時代錯誤もいいとこの古臭い制服は‥‥逆にあまり着崩さない方が可愛いく、男ウケもいいことを沙耶は知っていた。足が長く見えるようにスカートは少しだけ短めにしている。
ツヤ感を残した肌にピンク系のチークとグロス。カラコンにつけまつげというと派手に聞こえるかもしれないけど、最近のものはすごくナチュラルに仕上がる。
女子はともかく男子は誰一人として、沙耶が朝のメイクに1時間近く時間を費やしているとは思っていないだろう。
今日は久しぶりに部活が休みだったので、沙耶はクラスの仲良しグループのメンバーに誘われてバスで市内まで遊びに来ていた。
市内とはいっても、特別なものがある訳ではない。
カラオケ、ファミレス、ファーストフード。映画館の入った比較的大きなショッピングセンター。それで全て。 あとはローテーションで行き先が変わるだけ。
今日はファーストフード店の番だった。客は沙耶達と同じ高校生か小さな子どもを連れた母親グループのどちらかといったところで、どのテーブルも一様に騒がしかった。
「ねーねー、来週から公開のヒロトの映画みんなで観に行こうよ?」
「行く、行く! 楽しみ〜」
梨香子が言えば、すぐになっちゃんが答える。
「あれ、原作の小説も超泣けるんだよね」
「そうなの? 私まだ読んでないや〜。
沙耶、読んだ?」
グループではリーダー格の絢香がポテトをつまみながら、沙耶に話をふった。
「読んだよー。もうね、途中から涙とまらなかった〜絶対おすすめ!」
沙耶はみんなのテンションに合わせるように、はしゃいだ声をあげる。
小説を読んだのは本当。涙が出たってところは真っ赤な嘘だ。
ーーあんな安っぽい話で涙なんか一滴も出ないって。
沙耶は心の中で自分につっこむ。
アイドルのヒロトが主演で、もうすぐ映画が公開になるその作品は少し前にベストセラーになった恋愛小説が原作だ。
クラスの女子の間でも流行っていたから、沙耶もとりあえず読んではみた。
ヒロインが難病にかかり最後は死んでしまうというベタ過ぎるストーリー展開で、後半は完全に斜め読みだった。
映画かぁ‥‥そんなお金があるなら、新しいマスカラ買いたいな。熱でも出したことにしてドタキャンしよう。
沙耶はそう結論づけると、少しだけ残っていたイチゴシェイクを飲み干した。
ポテトのSサイズとイチゴ味のシェイク。4人全員が同じものを注文する。
そんな些細なことですら、最近は窮屈に感じていた。
「ごめん。ちょっとトイレ行ってくる〜」
沙耶は小さな化粧ポーチを持って立ち上がった。
化粧室で鏡に向かうと、ふぅと小さく息を吐いた。 面白くも何ともない話に愛想笑いをするのって意外と疲れるものだ。
頬の筋肉がピクピクと痙攣しているような気がした。
沙耶は鏡に映る自分の顔をじっと見つめた。肩につくかつかないかくらいの長さの黒髪はヘアアイロンで毛先を内側に巻いている。
紺色のセーラー服に白いリボンという時代錯誤もいいとこの古臭い制服は‥‥逆にあまり着崩さない方が可愛いく、男ウケもいいことを沙耶は知っていた。足が長く見えるようにスカートは少しだけ短めにしている。
ツヤ感を残した肌にピンク系のチークとグロス。カラコンにつけまつげというと派手に聞こえるかもしれないけど、最近のものはすごくナチュラルに仕上がる。
女子はともかく男子は誰一人として、沙耶が朝のメイクに1時間近く時間を費やしているとは思っていないだろう。