スワロウテイル
わぁぁ〜という歓声で沙耶は我に返り、視線をコート上へと戻した。
「やったぁ!! すげーじゃん、修」
井上が興奮気味に修の元に駆け寄ってきて、わしゃわしゃと修の頭をなでた。
沙耶の隣で座って観戦していた後輩達も賞賛の声をあげる。
「相沢先輩、すげー!!」
「スリーポイントラインより外からだったよなぁ」
沙耶は見逃してしまったけど、どうやら修が苦手なスリーポイントを決めたみたいだった。
ロングレンジは全然ダメだったはずなのに‥‥
「ふむ、相沢は最近調子いいな。マネージャーの目から見てどうだ? 今のチームは」
いつの間にか隣にきていた寺岡先生が沙耶に尋ねた。沙耶は細かくつけている練習ノートを開きながら答える。
「相沢君はロングレンジはほとんど入らなかったはずなので、今のが偶然じゃないのならチームの得点力に大きく貢献してくれると思います。
太田君は相変わらず絶好調ですけど、疲労のせいか右足に時々痛みが出るのが心配です。自分から弱音を吐くタイプじゃないので周りが見ておかないと‥‥」
「うん。他には?」
「二年生はよく頑張ってると思います。
小林君あたりはレギュラーになってもおかしくないかと。
一年生はまだ体力面が‥‥基礎練を追加しますね」
寺岡先生は沙耶のノートをちらりと覗きこんで、目を剥いた。
「すっごい書きこんであるなぁ。お前、それ試合会場に落としたりするなよ」
「井上君じゃありませんから、そんなミスしないです」
沙耶の言葉に寺岡先生はははっと声をあげて笑った。
井上はとにかく無くし物、忘れ物が多いのだ。いつだったか、試合にバッシュを忘れてきて、沙耶が井上の自宅まで取りに行ってあげたこともあった。
「長洲はいいマネージャーだよなぁ。
あいつらには勿体ないくらいだ。
最後の夏だ、県大会くらいには連れていってもらわんとな〜」
「‥‥どうせなら、インターハイって言ってください。 ね、志保ちゃん」
沙耶が隣の志保ちゃんに目配せすると、
志保ちゃんは大きく頷いた。
「はいっ。インターハイ行きたいです!」
「がははっ。 マネージャーは夢がでかくていいな」
‥‥寺岡先生や千草ばあちゃん、大人と話しているときは気が楽だ。
少しだけ本当の自分に戻れる気がするから。
練習後、部員達が散らかしていった更衣室を軽く片付けてから沙耶は体育館を出た。
空はまだ明るく、吹きつける風はたっぷりと湿気をはらんでいて生暖かい。
夏が、この町で過ごす最後の夏が、すぐそこまで来ていることを実感する。
ふいに楽しそうな笑い声が耳に届いて、沙耶は声の方を振り返る。
「‥‥中原みちる」
校舎とは別棟になっている図書館からみちると五條が並んで出てくるところだった。
何の話をしているのかはわからないけど、みちるはリラックスした様子で自然な笑顔を見せていた。
ーー修以外の人間にもあんな顔するんだ。
沙耶は少し驚いた。みちるはいつだって、どこか無理をしているような下手くそな愛想笑いばかりしていたから。
「やったぁ!! すげーじゃん、修」
井上が興奮気味に修の元に駆け寄ってきて、わしゃわしゃと修の頭をなでた。
沙耶の隣で座って観戦していた後輩達も賞賛の声をあげる。
「相沢先輩、すげー!!」
「スリーポイントラインより外からだったよなぁ」
沙耶は見逃してしまったけど、どうやら修が苦手なスリーポイントを決めたみたいだった。
ロングレンジは全然ダメだったはずなのに‥‥
「ふむ、相沢は最近調子いいな。マネージャーの目から見てどうだ? 今のチームは」
いつの間にか隣にきていた寺岡先生が沙耶に尋ねた。沙耶は細かくつけている練習ノートを開きながら答える。
「相沢君はロングレンジはほとんど入らなかったはずなので、今のが偶然じゃないのならチームの得点力に大きく貢献してくれると思います。
太田君は相変わらず絶好調ですけど、疲労のせいか右足に時々痛みが出るのが心配です。自分から弱音を吐くタイプじゃないので周りが見ておかないと‥‥」
「うん。他には?」
「二年生はよく頑張ってると思います。
小林君あたりはレギュラーになってもおかしくないかと。
一年生はまだ体力面が‥‥基礎練を追加しますね」
寺岡先生は沙耶のノートをちらりと覗きこんで、目を剥いた。
「すっごい書きこんであるなぁ。お前、それ試合会場に落としたりするなよ」
「井上君じゃありませんから、そんなミスしないです」
沙耶の言葉に寺岡先生はははっと声をあげて笑った。
井上はとにかく無くし物、忘れ物が多いのだ。いつだったか、試合にバッシュを忘れてきて、沙耶が井上の自宅まで取りに行ってあげたこともあった。
「長洲はいいマネージャーだよなぁ。
あいつらには勿体ないくらいだ。
最後の夏だ、県大会くらいには連れていってもらわんとな〜」
「‥‥どうせなら、インターハイって言ってください。 ね、志保ちゃん」
沙耶が隣の志保ちゃんに目配せすると、
志保ちゃんは大きく頷いた。
「はいっ。インターハイ行きたいです!」
「がははっ。 マネージャーは夢がでかくていいな」
‥‥寺岡先生や千草ばあちゃん、大人と話しているときは気が楽だ。
少しだけ本当の自分に戻れる気がするから。
練習後、部員達が散らかしていった更衣室を軽く片付けてから沙耶は体育館を出た。
空はまだ明るく、吹きつける風はたっぷりと湿気をはらんでいて生暖かい。
夏が、この町で過ごす最後の夏が、すぐそこまで来ていることを実感する。
ふいに楽しそうな笑い声が耳に届いて、沙耶は声の方を振り返る。
「‥‥中原みちる」
校舎とは別棟になっている図書館からみちると五條が並んで出てくるところだった。
何の話をしているのかはわからないけど、みちるはリラックスした様子で自然な笑顔を見せていた。
ーー修以外の人間にもあんな顔するんだ。
沙耶は少し驚いた。みちるはいつだって、どこか無理をしているような下手くそな愛想笑いばかりしていたから。