スワロウテイル
修の家はここらへんでは比較的新しい一軒家で、木造の純和風建築の多い一帯では珍しい和洋折衷の住宅だった。

両親の寝室や修の部屋のある2階は全て洋室だが、一階の居間は昔ながらの和室に掘りごたつ。
当然のように仏壇が置いてあり、線香の香りが充満している。

テレビで見るようなオシャレなリビングにすれば良かったのにと妹達はしょっちゅう文句を言うが、修の背丈近くまで雪の積もるこの町では掘りごたつは必需品だ。

無理してオシャレなリビングにして寒さを我慢するくらいなら、ダサい和室に掘りごたつで全然構わないと修は冬が来るたびに思う。

高校で歴史を教えている父親は、小学校教諭の母親とは対照的にもの静かで無口な男だった。

修も17にもなって父親に聞いて欲しい話もないので、ぼんやりとニュース番組を聞き流しながら温めた味噌汁をすすった。

テレビ画面の中では、タレントなのか学者なのか、いまいち肩書きのわからない中年男が最近のイジメ問題について訳知り顔で語っていた。


一週間程前に有名私立高校の生徒がイジメを苦に自殺した。

最近では珍しくも何ともない事件だが、舞台が東京のK大附属高校という政治家や芸能人の子息も多く通う名門校だったため、テレビでは連日大きく取り上げていた。

自殺した少女を可哀想にとは思うが、東京の事件など修にとっては海外と同じくらい遠い世界の出来事で、さして興味も持てなかった。

こたつに長くいると出るのが億劫になるので、食事が終わるとすぐに外に出ることにした。

桃子と夏美はペチャクチャと喋りながらだったが、真面目に作業しているようで我が家の玄関前の雪は少しずつ片付いていた。

「お兄ちゃん、みちるちゃんもいま出てきたよ。あっちも結構すごい」

「ほんとだ」

夏美に言われ、右隣の古い平屋を見ると玄関口が埋まるくらいに雪が積もっていた。
< 4 / 98 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop