スワロウテイル
‥‥お似合いじゃない。

みちるは群れるタイプじゃないから、五條の噂のことなんてきっと知らないのだろう。

‥‥あの二人が付き合ったらいいのに。
修とみちるがうまくいくよりはずっといい。

沙耶はそんな風に考えて、無意識ににこりと微笑んだ。


校門のところでみちると別れたのを確認してから、沙耶は五條の背中に声をかけた。

「五條くんっ」

五條がゆっくりと振り返る。

「あ‥‥長洲さん」

「よかった!覚えててくれたんだ。
途中まで一緒に帰っていい?」

沙耶は小走りに五條に駆け寄る。
もちろん、天然の沙耶の仮面をかぶって。

「うん。そういえば、家わりと近くだよね」

「でも意外と会わないよね〜」

いかにも優等生然とした端正な横顔、制服の白いシャツには皺ひとつない。
千草ばあちゃんがアイロンをかけてあげているとは思えないから、自分でやっているのだろうか。

「さっき、みちるちゃんと一緒にいたよね?仲良いんだねー」

沙耶はさりげない風を装って、探りを入れてみることにした。

「うん、そうだね」

慌てるわけでも、照れるわけでもない、五條のにこやかな表情からは何の感情も読み取れない。

「なんの話してたの!?」

「あぁ、俺が東京で通ってた予備校のテキストとかを貸してあげただけ。
中原さん、東京の大学行きたいんだってさ」

「ふぅん」

‥‥そんな面白くもなんともない答えは期待してないんだけどな。

沙耶は心の中でつぶやくと、この後の会話に頭を巡らせた。

『みちるちゃんが五條君のこと、かっこいいって言ってたよー』

これは露骨すぎて、嘘がバレるだろうか。

『みちるちゃんって綺麗だよね?』

うん、会話の始まりとしてはこっちの方が自然かもしれない。

「ねぇ、五條君。 みち‥‥」

沙耶の言葉を遮るように、五條が口を開いた。

「長洲さんさぁ‥‥疲れない?それ」

五條は変わらず爽やかな笑顔を沙耶に向けている。

「え!?」

沙耶は五條の言葉の意味が理解できずに、ぽかんと口を開けたまま聞き返した。

「その不自然に甘ったるい声とか、ひきつった愛想笑いとか‥‥疲れないのかなって思って」

五條は肩をすくめて、沙耶を小馬鹿にしたように笑った。
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