スワロウテイル
「なっ‥‥」

ほんの一瞬、頭がフリーズした。
裏がありそうだとは思っていたけど、こんなにあっさりと五條が本性を出してくるとは思っていなかったのだ。

沸々とお腹の底から湧きあがってくる怒りをなんとか抑えて、沙耶は笑顔を作った。

「なんのこと?」

「教室で時々すっごい冷めた目をしてたの知ってるよ。だから、別に俺相手にかわい子ぶらなくてもいいよ」

そう言った五條本人も爽やかぶるのをやめたのか冷たい目で沙耶を見ていた。
沙耶は言われた通りに愛想笑いをやめ真顔になった。頭がすぅっと冷えていく。

ーーこんな奴に愛想笑いする労力が無駄だわ。

「で、何がしたいの? 私がキャラ作ってるってみんなに言いふらしたいの?」

沙耶が嚙みつくと、五條は笑って首を振った。

「興味ないよ、そんなこと」

「どうだか! イジメなんかする最低な奴の考えることなんて、私にはわからないし」

その言葉に五條はぴくりと顔を引きつらせた。
その瞬間、沙耶の心は少しだけ高揚した。わけもわからず、「勝った」と思ったのだ。

五條がじっと睨むように沙耶を見つめる。沙耶も目を逸らさなかった。

「あぁ、知ってるんだ」

「みんな知ってるよ。知らないのなんて、修とみちるちゃんくらいじゃないの?
知ってたらあんたとなんか仲良くしないわよっ」

「まぁ‥‥そうかもね」

五條は伏し目がちに言って、苦笑した。
そして、ふぅと細く息を吐いてからもう一度沙耶と視線を合わせた。

「別にさ、長洲さんが俺をどう思ってようとそれはいいんだけど‥‥
俺を使って、修と中原さんの仲をどうこうしようとか考えるのはやめてくれない?」

「ーーっっ」

沙耶はかぁっと顔に熱が集まるのを感じた。 怒りと悔しさと恥ずかしさで、握り締めた両手の指先が震える。

「頑張ってぶりっ子してたって、中身が嫌な女なことは隠せてないよね」

‥‥なんて嫌な男なんだろう。本当のことは言っちゃいけないってルールを知らないのだろうか。

目の端に涙が滲んだけど、こぼれないように必死に堪えた。
ワナワナと肩が小刻みに震える。


「‥‥あんたにだけは言われたくない」

沙耶の小さな抵抗の声は意外な人物に遮られた。

「五條っ!!お前‥‥言い過ぎ。長洲に謝れよっ」

その声に沙耶と五條は同時に振り返った。
すぐ後ろに修がいて、珍しく本気で怒った顔で五條を見据えていた。

「‥‥えっ⁉︎修、いつから‥‥」

突然の修の登場にすっかり毒気を抜かれた様子の五條がつぶやく。
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