スワロウテイル
白いダウンコートに茶色の長靴を履いた少女がスコップで黙々と雪を片付けていた。

妹達と同じようなコートに長靴にスコップという格好なのに、みちるは風景から完全に浮いていた。

田舎町とか古い平屋とか雪かきとかそういった景色はみちるにはまるで馴染まない。

美しく整った目鼻立ち、細く長い手足、透き通るような肌に艶やかな栗色の髪。


修は一度だけ、芸能人という人種を生で見たことがある。友達に誘われていったアイドルのコンサート。ステージの真ん中で踊っていた女の子は弾けるような笑顔がとても可愛らしかったけれど、どちらが美人かと問われれば迷うことなくみちると答えるだろう。

絶対にみちるの方が綺麗だった。


みちるは長い睫毛に縁取られたアーモンド型の双眸でぼんやりと宙を眺めていた。


間違いなくここで生まれ育ったのに、17年経ってもみちるはこの街に溶け込めず、いつも窮屈そうだ。


修はゆっくりとみちるに近づく。
降り積もったばかりの雪はまだ柔らかく、長靴が音もなく吸い込まれていくようで歩きにくかった。


「おはよ」

「あぁ、ありがとう。いつもごめん」

みちるが顔をあげて、申し訳なさそうに言った。

「うちは人手があるからいいよ」

もう何年も、雪が積もるたびに繰り返してる会話だった。

修はみちると背中合わせで作業を始めた。

「おばさんは?」

みちるの母親は市内のスナックで働いているため帰宅はいつも明け方近い。 まだ寝ているのだろうか。

「昨日は帰ってきてない。
どうせ家にいたって役にも立たないけど」

「そっか」


彼女は人目をひく美人ではあるが安っぽい派手さがどこか田舎くさく、みちるとは違いこの町が似合う女だった。
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