スワロウテイル
別に苛められているとかではなく、学校で普通に話す友達は何人かいるみたいだ。みちると仲良くなりたいって女子は意外と多いようだし。

だけど、特別はいない。作る気も無さそうだった。

「休みの日に遊びに行く友達くらい作ったら?」

何度も喉から出かけたこの台詞。結局、まだ一度も口にしたことはなかった。

修とみちるは家が隣同士の同級生。
そこまで踏み込むほどの関係ではないと修はわきまえていた。


ーー昔は違ったんだけどな。

小学校に上がったばかりの、まだ男でも女でもなかったあの頃は、修にとってみちるは家族同然の存在だった。


それがいつの間にか、

みちるがどんどん綺麗になっていくにつれ、二人の距離は遠くなっていった。

先に離れたのは修の方だったかも知れない。 みちるはあまりにも綺麗で、綺麗すぎて、この田舎町に当たり前に溶け込んでいる自分とは住む世界が違うような気がしたのだ。

こんな風にすぐ隣にいても、決して手が届くことはない。

みちるはきっと、いつかはこの町から飛び立っていってしまうだろう。

だけど、本当にその時が来たとき、自分は笑顔で見送ってあげられるだろうか‥‥。ズキリと胸を刺す痛みに、修は気がつかない振りをした。


「寒いね」

「うん。何年住んでても、寒いもんは寒いよな」

修は鼻水をすすりながら言う。頷いたみちるの鼻先も真っ赤だった。

二人は黙々とスコップを動かし続ける。
毎度のこととはいえ、終わりの見えないこの作業はいい加減うんざりだった。

降り積もった雪は膨大すぎて、かさが減っている実感すら湧かない。

更に最悪なことに、今日必死に片付けた雪は明日の朝にはすっかり元に戻ってしまうのだ。

賽の河原で来る日も来る日も、石を積み続ける子供の話。

毎年、雪かきの季節がくるとあの話を思い出す。あの子供達と同様に、修だって何も悪いことはしていないのに‥‥
この苦しみは北国で生まれ育った人間にしかわからないだろう。

とは言え、この大量の雪を放置していてはあっという間に家ごと生き埋めになってしまう。否が応でもやるしかなかった。

「お兄ちゃ〜ん」

「みちるちゃ〜ん」


少し先にいる妹達が大きな声で自分を呼ぶ。 小さな子供みたくぶんぶんと両手を大きく振っている。

「なんだ〜?」

大した距離じゃないのだけど声が雪の壁に阻まれるせいか、返事をする修の声も自然と大きくなる。


「お母さんが、少し休憩にしましょーだって。チーズケーキが焼けたみたい」

ありがたい提案に素直に従うことにして、修はスコップを自分が築いた雪山にたてかけた。

腕を大きく上にあげ、ぐーっと背中を伸ばす。早くも、右腕の筋肉が疲れを訴え出していた。

ふと隣に目を向けると、みちるが笑顔で妹達に手を振り返していた。
その笑顔があまりに眩しくて修はふいっと顔を背けた。
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