スワロウテイル
4.声を聴かせて
もし君が生きていたのなら、どんな女性になっていただろうか。

どんな仕事に就いて、どんな男性(ひと)を生涯の伴侶に選んだのだろう。

今頃なにをしていただろう。


夜眠りにつく前のほんとわずかな時間や、時間に追われ慌ただしいばかりのオフィスの片隅で、時々そんなことを考える。

あれからちょうど十年の月日が流れて、僕は大人になった。
十年前の自分が思っていたより遥かに幼い大人だけど、あの頃の僕と今の僕は確かに繋がっているのだからそれも当たり前なのかもしれない。

あの日の後悔と痛みは思ったよりもずっと癒えていて、思ったよりもしっかりと残っている。

今はもう、君を思い出すときに苦しい気持ちになることはない。
だけど、君を忘れることも決してないだろう。


僕はこれからも生きて、仕事をして、恋をして、もしかしたら結婚をして子供ができたりもするかもしれない。

だけど、時々は君を思い出す。あの頃の自分を……思い出すだろう。



ただ、君の声を聴かせて欲しかった。


あの頃の僕の頭の中を占めていたのは、そんな単純な願いだったんだ。







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