スワロウテイル
◇◇◇

冬休みはとても短い。東京の学校に比べると、こちらは夏休みが短く冬休みが長いのだと聞いたことはあるけれど、実感としては本当にあっという間だった。

そもそも正月三が日以外はバスケ部の練習で午後から学校だったため、あまり休みという気もしなかった。

1年、2年と修はずっとベンチ要員だった。3年が抜けた今がレギュラーになれる最大のチャンスなんだけど、当確ラインぎりぎりの実力でどう転ぶかは運次第といったところだ。

補欠とはいえ練習メニューはしっかり一人前なわけで・・当然、ものすごく疲れる。
帰宅して夕飯と風呂を済ませると、すぐにベッドに直行。

朝は母親に叩き起こされて、お決まりの雪かき。

そんな風に追い立てられるように数週間を過ごせば、いつの間にか新学期の始まりだ。


「うぅ〜さみぃ」

身を切るような冷たい風から少しでも身体を守ろうと、黒いネックウォーマーを鼻の下まで引き伸ばす。

学校までは徒歩で約20分。霧里町の子供はよっぽど成績優秀な奴以外は大体が修と同じ霧里中央高校に入学する。
霧里北高校も南高校も存在しないのに、何故わざわざ中央とついているのかは誰も知らない。

学校の数が少ない田舎ではありがちな話だが、生徒の頭のレベルはピンキリだ。
東京の有名大学に進学する奴もいれば、卒業すらできずに退学しちゃうようなのもいる。


「お〜い、修」

背中ごしに名前を呼ばれて振り返ると、同じクラスで部活も一緒の井上がこちらに向かって歩いてくるところだった。

「お〜おはよっ」

修は井上が追いつきやすいように、速度を落としてゆっくり歩く。

「あ。修に借りてた漫画、持ってくんの忘れた」

修の顔を見て思い出したのだろうか、井上はバツが悪そうに頭を掻いた。

「またかよ。お前、忘れたとか言ってパクるつもりじゃないだろーな」

「ひでー。 俺がそんなことするように思う?」

「思う。すっげー思う」

そう言って、修は笑った。

本当は、修自身も漫画を貸してたことなんか忘れてたし返ってこなくてもまぁいいかなと思う。

井上がどうだったかは覚えてないが、友達に貸した漫画やらゲームやらが返ってこないことはよくあった。

自分でもお人好しだと思うけど、悪気があるわけじゃないなら別にいいかといつも納得してしまうのだ。
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