スワロウテイル
「あ〜あ。 来年こそは、みちるちゃんと同じクラスになれないかなぁ・・・」

井上がぼやく。修と井上はA組、みちるはD組なので、今は長い廊下の端と端だ。

「そしたら、授業中もずっと眺めてられるのになぁ」

「同じクラスになったら、眺めてないで話しかければいいのに」

修は呆れた顔で井上に言った。
こういう男ばかりなのだから、やっぱりみちるは大変なのかも知れない。動物園のパンダじゃあるまいし、毎日毎日無遠慮な視線に晒されていては、愛想を振りまく気も失せるのはわかる気がする。


「みちるちゃんがまともに会話してくれる男なんて、お前くらいじゃん。家が隣だからってずるいよなぁ」

「みんなが思ってる程、仲良くなんかないって・・」

修は目を伏せて曖昧な笑みを浮かべた。
この話題は好きじゃない。何とか違う話にすり替えようと必死に頭を回す。

「名前も覚えてもらってないその他大勢の俺から見れば、十分仲良いって!
みちるちゃんに近付きたいから、修を紹介しろって言ってくる奴だっているんだぜ」

「あー・・・ははっ」

張り付いたような作り笑顔から、乾いた声が漏れる。
大きな石を飲み込んだみたいに、お腹のあたりがズンと重くなる。


友達が多い事だけが唯一の取り柄だと思ってたんだけどな・・・
友達だと思ってる奴らの顔が頭に浮かんでは、消えていく。

この中の何人かは、みちるが目的だったりするんだろうか。
友達だと思ってるのは、自分だけ?

そんな風に考え出すと、自分がすごくちっぽけで価値のない人間のように思えてくる。


卑屈な考えを打ち消そうと修はぎゅっと強く目を瞑った。

「そーいやさ、昨日あれ見てた?」

修の心の葛藤など気づいてもいない井上があっさりと話題を昨日のテレビ番組へと移した。

だけど、重くなった修の足取りが元に戻ることはなかった。

修はみちると幼馴染であることをどこかで自慢に思っていた。羨ましがられるのだって、昔は悪い気はしなかった。

けど最近は、ものすごく勝手だとわかってはいるけど、自分とみちるを比較してしまって妬ましく思う事がよくある。

何もしなくても、愛想なんて振りまかなくても、ただそこにいるだけでみんなに注目されるみちるが羨ましかった。


修も『特別な人間』になってみたかった。
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