さよならはまたあとで
君を呼ぶ

「だーかーらっ!!ここはこの式を代入するんだって!!!お前本当にどうしようもない馬鹿だな!!」


日曜日の昼下がり、私たちは葛城と約束した通り、勉強会を開いていた。

場所は学校の先にある葛城の家だった。
畳の香りがする部屋で、私たち三人は参考書と向かい合っていた。

元から勉強が嫌いじゃない私は暗記教科を一人平和に見直していた。

ちらりと葛城の方を見る。

彼は相変わらず、お兄さんの海翔(あまと)に怒鳴られている。

葛城は意外にも勉強が苦手らしい。

特に数学。

お兄さんの言い分では、それは小学生の頃かららしかった。


その一方で、律太はものすごい速さで数学の問題を解いている。

授業中、律太はだいたい寝ている。

はじめは先生も呆れつつ起こしていたけれど、テストではしっかりと点を取る律太に感心して、最近ではどの先生も黙認するようになっていた。


「アイス食べたいね」


ふと鉛筆の動きを止め、律太が立ち上がる。


「どこ行くんだよ」


葛城が涙目で律太を見上げる。


「アイス買いに行ってくる、俺おごるよ」


「あ、私も一緒に行こうかな…外の空気吸いたい」


少しうとうとしていた私は、律太に便乗して立ち上がった。


「俺も行く…!」


葛城が立ち上がろうとすると、海翔が葛城の手首を力強く掴む。


「空は兄ちゃんと仲良く二次関数の問題を解いてような」


ちょっぴり怖い海翔の笑顔に、葛城はへたへたとその場に座り込んだ。


「いってらっしゃい」


力無く、寂しそうな葛城の声を背中に、私たち二人は部屋を出た。
< 103 / 256 >

この作品をシェア

pagetop