さよならはまたあとで

帰り道、私たちは行きよりも少し早足で歩いた。アイスが溶ける前に家に着きたかったからだ。

律太の大きな手に提げられた、アイスの入った白いビニール袋が大きく、早く揺れる。

私は律太の後を追うのに精一杯だった。

私はあまり背が低い方ではないけれど、律太の背はものすごく高いから、一歩に差が出るのは当然だった。

いつもは歩幅を合わせてくれていることを改めて実感した。


葛城家の玄関の前に着くと、チャイムも鳴らさずに律太は勢いよく扉を開けた。

「ただいま」とまるで自宅のように靴を脱いで上がり込んだ。

脱ぎ捨てられた律太のスニーカーを並べながら、私も靴を脱いで家に上がった。


律太の後に続いて階段を駆け足で登り、葛城の部屋のドアノブを回した。


「あれ?あっくん、空は?」


部屋に二人いたのが一人になっていた。

いなくなったのは葛城弟。

開いたままの参考書がぽつんとちゃぶ台に置かれていた。

私たちが出かける前のページと同じページである。全く進んでなさそうだ。


「トイレ行ってる間に消えた。」


こめかみを押し、顔を引きつらせながら海翔が言った。


「密室なんだよ、俺、空が逃げらんないように突っ張り棒でドア開かないようにしてったのにさ」


「密室殺人事件だね」


「ごめん、まだ誰も死んでない」


コミカルな律太と海翔のやり取りに私は笑いを堪える。

私が込み上げてくる笑いと戦っている間にも、律太は葛城を探し続けていた。


「この辺にいそうだけど」


やがて律太は、勢いよく部屋の片隅にある押入れの扉を引いた。

そこには、律太の予想通り、葛城がいた。

彼は両膝を抱えて寝息を立てていたらしく、部屋の光が急に入り込んだのに驚いて目を覚ましたようだった。


私たち三人は、そんな葛城弟を声を出して笑った。

小学生の頃に戻ったかのようだった。

私たちは半分溶けたアイスを食べた。

ドロドロなのに、今まで食べたものの中で一番美味しいと思った。

プシュッと隣で何かが弾けるような音がした。
見ると、空飛が炭酸飲料のペットボトルのキャップを外したところだった。

爽やかなぶどうの香りは、なんだか夏の香りがした。
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