さよならはまたあとで
渚のダンスが始まるまで、私と七瀬も教室での接客担当だった。
七瀬の白い生地に真っ赤な金魚が泳いでいる浴衣がとても可愛らしかった。
窓から差し込む白い光はヨーヨーすくいのビニールプールに張られた水を照らしていた。
水面はキラキラと光り、まるで宝石のようだった。
「お客さん来たよ!」
受付係の葛城がひょいと廊下側の窓から顔を出した。
「こっちも準備ばっちりだよ!」
私がオーケーの合図をした。
葛城はそれに頷くと、客の誘導を始めた。
一般客の話し声の波が一気に教室に押し寄せた。
葛城は人数を数えながら、教室に入る人数を制限し始めた。
私の持ち場はヨーヨー掬いだ。
水面に浮かぶカラフルな水玉模様を指差して、小さな女の子が嬉しそうに笑っている。
私は女の子の小さな手から手作りのヨーヨー掬い券を受け取ると、ティッシュをねじって針を通した釣り道具を渡した。
「ママ、ピンク可愛いね!」
耳の上で二つに結んだ髪がぴょこぴょこ跳ねる。母親は「そうねぇ」と返事をしながら女の子の袖をまくった。
結局女の子の釣り糸は途中でプツンと切れてしまったが、彼女が欲しがっていたヨーヨーを手渡してあげると、彼女は本当に嬉しそうにはにかんだ。
「ありがとう、お姉ちゃん!」
女の子は母親と手を繋ぎ、私たちに手を振りながら教室を去っていった。
まだ耳に残る「ありがとう」が暖かかった。