さよならはまたあとで
「おーい!」
私はそう微かに聞こえて辺りを見回した。
「あ、あれ」
私が指差した先には、すっかり衣装に着替えた渚がこちらに手を振っていた。
それから大きく手招きをする。
私と七瀬は急いで渚の方へ走っていった。
「いやぁ、こうなるの分かってたからさ!席とっといたよ!」
渚はいつもの調子でケタケタ笑った。
「もぉー、そういうことは先に言っといてよ!」
七瀬はその言葉の裏腹、すごく嬉しそうで、私はほっと胸をなでおろした。
私たちは人の熱気に包まれた体育館に足を踏み入れた。
いまにも溶けてしまいそうな気になる。
渚は細くて柔らかい体をうまく使って、人と人の間を縫うようにして進んでいった。
私たちも必死の思いでそのあとをついていった。
渚が止まったのは、パイプ椅子が並んだエリアだった。
そこには渚の手書きだろうと思われる文字で、「故障中」と書かれた紙が二席に貼り付けられていた。
渚は何事もなかったかのようにその張り紙をむしり取ると、私たちをその席に座らせた。
相変わらずな破天荒ぶりである。