さよならはまたあとで
「お母さん!」
私はお母さんを呼びながらリビングに降りる。
「ねぇ、どうかな。変じゃない?」
くるくると回ってみせる私にお母さんは親指を立てる。
「さすがお母さんの娘。雑誌から飛び出してきたみたい…あ、そういえば事務所の方はどうしたの?」
あ…忘れてた。
ここのところ別のことで頭がいっぱいで、決めるのを先延ばしにしていたのだ。
「…まだ、連絡してないや」
私は控えめに笑う。
そんな私に、お母さんは「もぉ」と小さくため息をつく。
「早く決めなさいよ。お母さんは、どっちにしても応援するから」
荷物を鞄に詰め始めた私の肩に、お母さんの両手の温かさを感じる。
「わかった」
私は鞄を肩にかけた。
リビングから玄関まで、お母さんが私の背中をぐいぐい押す。
ヒールのあるサンダルを履くと、今度はポンッと軽く背中を押された。
「行ってらっしゃい」
振り返るとお母さんは満面の笑みを湛えてい私を見つめていた。
「行ってきます!」
そんなお母さんに応えるように、私は勢いよく家を飛び出した。