さよならはまたあとで
「少し…時間欲しいな」
「うん、いくらでも。それまでは今まで通り幼馴染ってことでー」
ふいっと彼の視線がペンギンに戻った。
胸に手を当てると、いつもより少し早い鼓動を感じた。
自分のことがだんだん分からなくなってくる。
帰りの電車でも、彼は立ったままうとうとと目を瞑っていた。
たまによろける彼を支えながら、私は彼の言葉を思い出す。
すぐには返事はできないけれど、なんだか今日は楽しかった。
「じゃあねぇ」
「え、帰らないの?」
最寄り駅で下車した私たち。
帰ろうとする私に対して、明良は駅のベンチによいしょと座り込む。
「んー、少し寝てくぅ」
ふぁぁと大きな欠伸をひとつして、彼は眠そうに私を見つめた。
「家帰って寝ればいいのに…風邪引くよ?」
「んー、もう眠すぎて歩けないもん。」
彼は両足をばたつかせて、へらっと笑う。
「優恵は帰ってね。」
彼はそう言うと、早速寝息を立て始めた。
「またね」
置いていくのも気が引けたけど、私が抱きかかえて帰るわけにもいかなかったので、私は一言彼に声をかけて駅を後にした。