さよならはまたあとで
【Akira Side】
何本の電車を見送った頃だろうか。
日は西に傾き、橙色が青かった空を綺麗に染め上げる。
風も心なしか冷気を帯びてきた。
駅のベンチに腰を下ろし、音楽を聴きながら俺はあいつを待っていた。
やがて駅のホームに慌てて駆け込んできたのは、俺の待ちくたびれた人物だった。
彼は肩で息をしながら、辺りを見渡していた。
「やっほぉ」
ウトウトしていた俺は、少しふらつく足をゆっくりと彼の方に進めた。
「久しぶりだねぇー、燈太」
うん、その動揺の具合。間違いないね。
「…じゃなくて、律太くんだよねぇ」
「誰ですか…」
彼は優恵のことを探しているのだろうか、まだ周りを気にしている。
「それ、この前優恵にも言われたなぁ…んー、優恵の幼馴染で、燈太の親友ってところかな、俺は」
眠そうになってしまう口調を必死に正しながら俺はそう言った。
律太の目は驚きでくるくると回る。
「優恵なら帰ったよ、てか、俺が帰らせました」
燈太によく似た目が俺を睨むように見つめ返す。
「寂しそうだったよ、優恵。何回も携帯確認して、不安になって」
律太は伏し目がちになる。
あと少し、あと少しで俺の勝ちだ。
「それは俺にも事情が…」
歪んだ律太の口から震えるような声が漏れる。
「そんなんでさぁ」
律太が薄い唇を噛み締めるのが見えた。