さよならはまたあとで
つまり、お母さんの考えはハズレだ。

でもそれを説明する気力のなかった私は、「うーん、どうだろう」と適当にはぐらかしてソファの上で足を曲げた。


「あ、もしかしたら」


お母さんは、ずっと探していたものが見つかった時のように顔を上げた。


「優恵、覚えてる?…燈太君のお葬式の時、優恵が「燈太君がいる」って、大騒ぎしたのよ。

もういるはずがないのに、幽霊でも見たのかしらって思ってたけど…あ、でも幽霊は成長しないか。」

お母さんは、私が今日話して、一緒にクレープを食べた相手が幽霊だったんじゃないかと、そう主張しようとしてやめた。

触れるのに、幽霊な訳がないじゃないか。

昔から、お母さんはどこか抜けてる。

お父さんは、そこがいいって言っていたけれど、私はよく分からない。

ふと、何かが私の鼻腔をくすぐった。


「ねぇ!お母さん、もしかして火かけっぱなしじゃ…?」


「あ!!」


お母さんは慌てて台所に戻った。

まさかと思った通りだった。

あとで台所へ行くと、そこが真っ黒に焦げた鍋が流し台にぽつんと置いてあった。
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