不時着
自分の人生が上手くいかないのは全てこの世界のせいだと彼は言う。パチンコで負けた憂さ晴らしにと私を飲みに誘った彼は、ごく当たり前のように私のお金でお酒を飲み、私のお金でお気に入りの焼き鳥屋へハシゴして、何杯目かもわからないビールを一口飲んだあとで、ふっと呟くように「くそみてぇだな」と吐き捨てた。
彼はダメ人間でクズ野郎なので、そんな風に愚痴をこぼした次の日もまた懲りずにパチンコに出かけるだろうし、ボロボロに負けた夜にまた私に電話をかけてくるだろう。
「ほんとくそみてぇだな、世の中って」
そんなことを言うくせに、どこか満ち足りたように笑う彼のことを、私はきっと嫌いにはなれないのだろう。あの日、彼が精一杯に引いてくれたラインを、私は自分の意思で飛び越えてしまった。
それはきっと正しくないとわかっている。でも、やっぱり私は、どうしようもなく虚しい夜に、彼のことを思い出してしまうのだろう。慰めてくれるわけでもないのに、優しい言葉をかけてくれるわけでもないのに、それでもこんなクズ野郎を待ち侘びてしまうのだろう。
「ほんと、くそみたいだよね」
「お、口が悪いねカサハラさん」
「嫌になるよね、どいつもこいつも」
くそみたいなあなたも、私も。
「はぁー、嫌になる!」
「カサハラさん今日は荒れてるねぇ」
けれど明日も、私はこのクズ野郎のことを思いながら、どうにかこうにか息をして、生きるのだろう。
グラスいっぱいに注がれたビールを流し込んで、ごくりと喉を鳴らした彼を眺めながら、あぁ、こんなくそみたいな世界が早く終わってしまえばいいのにと、叫び出したいような気持ちのまま、笑った。
【不時着】